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Fe2O3
現状への不満は、どんなに恵まれた人間にでもあるのだと聞く。
そうしてそれこそが人を成長させるのだとも…
ポジティブに自身を考察するのなら、私にはそれだけ向上心があった、ということなのかも知れない。
高校一年生の夏。
私は、私を取り巻くすべての境遇に対して、遣り場のない退屈に倦んでいた。
“シンプルに洗練された制服”を身に纏った生徒達の通学風景は、葬儀に向かう葬列の様に。
“瀟洒で気品に満ちた佇まい”を演じる彼女らは、より上等な嫁ぎ先を勝ち取る為の訓練に勤む兵隊の様に。
いつか母の視た幻影は、私の目にはもはや安っぽいハリボテにしか見えなかった。
そんな調子なんだから、思えば当然の帰結ではあったのだけれど、冷めた態度で周囲を見下げる私のことを好いてくれる級友はいつの間にか一人も居なくなっていた。
実際裕福な家の娘たちが犇めき合う教室の中に在って、夢見がちな専業主婦と中小企業の課長の間に生を受けた娘と言う存在は、どこか場違いで、異質だったのだろう。
時折コチラを流し見ては、くすくすと囀られる流言はそれなりに不快だった。けれど生来ひねくれている私はますます居直って、「望まれるままの道化に徹してあげよう」なんて、どこまでも不遜にそう思ったのだった。
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