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最初は、ほんの好奇心だった。
勉強を見て欲しい、と私を訪ねてきた後輩の女の子と、生まれ初めてのキスをした。
梅雨どきの放課後。薄暮に薄く青みがかった人気のない教室はほのかに肌寒くて、わずかに開いた窓からは、雨が降る前特有のほこりっぽい匂いのする外気が、にわかに流れ込んでいた。
我ながらひどいとは思うけれど、その子の名前も、顔も、今となっては思い出すことが出来ない。
覚えているのは、固く結われたツヤのある三つ編みと、触れた唇の生温かな柔さ、そしてぺこりとお辞儀をしてから、逃げるように去って行ったその子の上気した頬の赤さだけだ。
このとき、水に浮かべた氷がひび割れるようにして、私の中で何かが壊れたような気がした。
それからの私は、ほのかにタガが外れていた。
若かりし日の私は、一度超えてしまった線の向こうへ足を踏み入れることに、何らためらいがなかった。
屋上への通路、三階のトイレ、更衣室、美術室…
手頃な相手を見つけては、人気のない場所で情事に耽った。(とはいえそれだって、今にして思えば小鳥同士の毛づくろいのようにささやかなものではあったのだけれど)おかげで学園内で人の通らない場所と、その時間帯にやたらと詳しくなった。
このとき関わりのあった幾人かの子達に関しては、もはやほとんど、何も覚えていない。
私にとって彼女たちは、“学園のお嬢様“というブランドに包まれた同価値の量産品でしかなかった。ただそのブランドを私の手で剥ぐことに、一抹の快楽を感じていた。
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