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彼女たちだって、別に個人としての私に惹かれた訳ではなかった筈だ。
私の持っていたいくつかの特徴をフォーカスした上で、自身の描く理想の王子様像を都合よく私に投影していたに過ぎない。
互いが互いを見てはいなかったからこそ、私の良心も呵責に苛まれることなく、憂さ晴らしのような情交を重ねられた。と言うわけだ。
あくまでも軽薄に、その都度望まれる役を演じることで、私は私を特別な存在だと錯覚していた。
私が静琉を初めて認識したのは、高校三年の春の終わり頃だった。
学園には遠方から入学する生徒も多くて、そういう子達の為の寄宿舎が併設されていて、静琉もそこに寄宿する生徒のうちの一人だった。
彼女たちは“寮生組”と呼ばれていて、大抵は名家の出だったり、お金持ちの家の娘であったりして、学園の中でも一際目を惹く存在だった。
「寮生組の一年生に、すごく綺麗な子がいるみたい。」という話は、色事以外で人との関わりが薄い私の耳にも届いていた。そうして、それが静琉のことだと気が付くまでに、さほど時間はかからなかった。
噂のその子は本当に綺麗だったから…
華奢な身体から伸びた白くすらりとした手足。人形の様に整った小さな顔に大きな目。ツンとした小振りな鼻と、品良く結ばれた形の良い唇。少し癖のある髪はふわりとしたセミショートで、色素が薄いのか、ほのかに茶色がかっていた。
喪服の様だと思った制服でさえ、彼女の纏ったそれは、完璧に上品な少女を体現しているように思えた。
そして彼女が完璧なお嬢様であればあるほど、私は「この子は、どんな風に鳴くんだろう。」なんて不埒な想像をするのだった。
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