H2O2

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静琉との接触は、実に意外な形で実現した。 その日は“不純同性交遊”の相手が捕まらなくて、人も(まば)らな放課後の学園内を、あてどなくブラついていた。 目の前には西陽に赤く照らされた廊下が、永遠に続くみたいに長く伸びていて、不意に自分だけが世界に取り残されたような寂しさに襲われ、足を止めた。 顔をあげると、『理科準備室』と書かれた札がぶら下がっている。 ほとんど無意識に、私は教室の引戸を引いた。 音も立てずに開いた隙間から覗く室内からは、薬品と煙草の()えた匂い。 そして窓辺には静琉が佇んでいた。 彼女は控えめに開かれた窓から外へ向けて、細く長い煙を吐き出してから、ゆっくりとこちらを振り返る。 別段慌てる様子もなく、形の良い唇をたおやかに歪めて、微笑んだ。 私はしばし、その不似合いな光景に呆然としながら、一連の所作の美しさに見惚れた。 私が我に返るより先に、吸い終えた煙草をステンレスの携帯灰皿にしまいながら静琉が歩み寄る。 淀みなくツカツカとこちらに向かってくる、自分より頭ひとつは小さな少女に、何故だか気圧されて、私は動く事が出来なかった。 目の前で歩みを止めた彼女が、突然私の胸にしなだれた、と思うと、背後で引戸が閉まる音が(かす)かに響いた。 光源を失った室内に、薄闇と静寂が広がる。 「ここでのこと、秘密にして下さる? ね、色狂いの先輩?」 静かな声でそれだけ言うと、静琉は私に口づけて、またたおやかに笑った。
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