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唇を奪ったことは、それまでにいくらでもあったけれど、奪われたのはこのときが初めてだったかも知れない。
呆気にとられる私をよそに、細く長い指が頬を這ったかと思うと、とろける様な甘い香りと、いぐさの様な煙草の匂いがして、柔らかな唇が私の口を再び塞いだ。
後ろ手に教室の鍵を閉めてから、私は彼女の肩をつかんで、乱暴に身体を引き離す。見た目より更に薄い彼女の身体の感触に、壊れやしないかという不安が脳裏を掠める。
「色狂いだなんて、先輩に対してずいぶんじゃないの?」
既の所で余裕を取り戻した私は、改めてまじまじと彼女を見ながら言った。
たった今、自身の身に起こった事と、目の前できょとんとしている少女との関連を、うまく繋ぐことが出来ない。
「あら?有名でしてよ? 学園一の色狂い、色情魔、軽薄な王子様、あとは…なんだったかしら?」
思い当たる節はいくらでもあったけれど、改めて口に出されると恥ずかしさが込み上げてくる。
「そういうあんたも有名だよ。寮生組の一年に、びっくりするほど綺麗な子が居るってさ。立花静琉さん。」
「あら、嬉しい。」
屈託なく笑う彼女の腹が読めなくて、依然私はどこか落ち着かない気持ちのまま、所在無く会話を続ける。
「それにしても意外だね、あんたみたいな子が隠れて煙草なんて。」
「うふふ、じゃあ先輩みたいな人なら、意外じゃないのかしら?」
「はっ、そうかもしれないね。」
「でしたら、一服いかが?」
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