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静琉は手慣れた様子で懐から煙草の箱を取り出して、こちらに向ける。
「…遠慮しとくよ。健康志向なんだ。」
「ふふ、それは意外ですね。 そして残念。 共犯者になって頂いたほうが、私としても都合がよいのですが…」
残念だと言うわりには、その表情には一切の翳りもない。
「それにしても先輩? 鍵なんて閉めて、一体どうなさるおつもり?」
「そうだね…こんな薬品だらけの教室で火遊びしている、無用心な後輩を躾る。とか?」
とっさに口をついて出た言葉の半分は本当に心配だったからだ。たとえ火事にならないにしても、教室で喫煙なんて無用心が過ぎる。
依然として静流の表情には何らの変化も見受けられない。
薄く笑ったままの彼女の表情は、まるでプログラムされた動作をトレースする精緻な機械を思わせて、どこか不気味な印象を受けた。
「口止め料をご所望ですか?」
「口ならさっきあんたに塞がれたじゃない。心配しなくても、告げ口なんてしやしないわよ。」
「そう、ですか。話に聞くより、優しいんですね。」
さっと熱が引くように、崩れることのなかった表情が沈む。期待はずれだと、そう言われたような気がして、私は少しだけ苛立ちを覚えた。
「どんな話を聞いたのかは知らないし、別に教えてくれなくていいけど、あんた度々失礼だね。」
「あぁ、気に障ったなら、ごめんなさい。」
そう言って新しい煙草に火を点けようとしている彼女は、もはやこちらを見ようともしない。心底つまらなそうにまた窓辺に向かって歩き出そうとする。
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