その日はずいぶん良い天気だった。

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その日はずいぶん良い天気だった。

 ねえ、覚えてる?  三年前の夏の始まり。  ちょうど私が元カレにこっぴどくフラてた翌日。  授業を朝からサボって、二人で当てもなく歩いていた。  青空の下。  ――あいつのこと、忘れなくていい。  そう言って立ち止まった。  ――だから、死にたいなんて思うなよ。  一歩先を進んで、私も足を止めた。  後ろから、尚も言葉が飛んでくる。  ――まだ十九年しか生きてねえんだ。あんな奴のせいで死ぬなんて、もったいねえよ。  私は鼻で笑う。  ――あんたに何がわかんの。  言ってから、足を一歩踏み出す。後ろの君から逃げるように。  でも腕を掴まれて、それは叶わなかった。  ――わかんねえよ。俺は死にたくなんてないんだ。  強い力で抑えられていたわけではなかった。ただ優しく、掴まれていただけ。  それを振りほどかなかったのは、私が、臆病者だったから。  ――でもお前が死んだら、俺も死にたくなっちまうだろ。知ってるやつが死ぬのは、怖いんだよ。  唯一の味方の君に呆れられ、一人ぼっちになりたくなかったんだ。  ――……じゃあ、死ねないね。  振り返って、君を見た。  そして思わず苦笑した。だって――。  思っていたよりもずっと、君が情けない顔をしてこちらを見つめていたから。  それが、たまらなく愛おしかった。 「――ねえ、覚えてる?」  朝、カーテンを引きながら言った。  まだベッドで寝ぼけている君が、「ん、何を?」と聞き返す。  私は振り返って、笑った。 「今日は君に救われた記念日だってこと」  少しだけ開いていた窓から入り込んだ風。  今朝も又、綺麗な青空が広がっていた。
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