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「見てみたいなあ、海の中」  くつを浜辺に放り出した女の子は、ひざまで水につかります。栗色の髪がぬれることも気にしないで、まん丸の目を波へと近づけました。 「わたしも町の中を歩いてみたいです」  波打ちぎわの大きな岩に腰をおろした女の子の声は、夢見るような音色です。 「僕のお嫁さんになれば、町の中を案内してあげるよ」  男の子が顔を赤らめながら言いました。この可愛らしい女の子と、本当に結婚したいと思っているのです。  岬の影の岩場では、幼い三人の声が飛びかっています。 「まあ。そんなことができるのかしら」  笑顔で頭をふったとき、長い金色の髪がゆれました。すわった岩に広がる髪は、青いうろこにかかります。 「人魚のわたしが、お嫁さんだなんて」 「この剣を持っておいでよ。王の座につく証となる大切な剣なんだ」  腰から外した短い剣を、男の子は人魚の前に差し出します。つかには、三日月形の青い大きな石がうめこまれていました。 「そんな大切なものはもらえないです」 「あげるんじゃなくて、あずけるだけ。ねっ」 「よーし。あたしが証人だ。人魚のソレーナと王子のサントレオは結婚する」  先のぬれた栗色の髪をかきあげて、元気に女の子は手をたたきました。 「アドレア。頼むぞ。僕のこの誓いを、しっかりと覚えておいておくれよ」  子供たちのはしゃいだ声を、海と空に響く怒鳴り声が打ち消しました。 「王子さま、はなれてください。早く。海の魔物です」  長く光る剣をぬいた家来が砂をけって走ってきます。  血相をかえて近よる家来に驚き、ソレーナは海へと飛びこみました。あわてていたので、王子からわたされた王座の証となる剣を持ったままでした。 「けがはありませんか? 呪われていませんか?」  かけよった家来は、サントレオ王子の頭のてっぺんから足の先までを何度も見返します。 「アドレアさまも、ご無事でしょうか?」  あまりの剣幕にサントレオとアドレアは、おびえてうなずくことしかできませんでした。
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