犬を探す人。

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 犬は言葉を話せない。だが、人間の言葉の意味を、なんとなく程度には理解しているのではないか?と思う瞬間があるのは確かだ。柴犬の三角形の耳は、私が話をしている間ずっとぴくぴくと動いている。飼い主の言葉を一字一句聞き逃さないようにしようとしてくれているのがわかり、非常に可愛らしい。同時に、意味が全てわからなくても、ポミーと呼びかけるだけで嬉しそうに笑って尻尾を振ってくれるのだ。なんと愛しい生き物だろう。仕事で大きな失敗をしてしょげる日があっても、うざったいお局の上司にイヤミを言われてムカついた日も、この子の笑顔を見るだけでもやもやが晴れていくのだ。  自分のような才能もセンスも何もない飼い主であっても、犬は分け隔てなく愛して傍に寄り添ってくれる。その気になったらいくらでも人を噛み殺せるような鋭い牙と強い力を持っているのに、この子をはじめ殆どの犬は、多少理不尽な目にあっても人を攻撃しない。ただただ人と一緒にいて、めいっぱい愛情を与えてくれる。こんな優しくて素晴らしい生き物は他にいない、と私はそう確信していた。まあ、猫とか兎とかも充分カワイイのは否定しないけれど。  だからこそ。  その犬を“モノ”としか扱わない、自分にとって都合の良いアクセサリーのようにしか思わない人間がムカついてたまらないのである。  こんな奴なんぞに、渡せる犬などいるはずがない。炎上目的、目立ちたいだけの愉快犯かもしれないが、見過ごすことはできなかった。歪んだ正義かもしれないが、一言言ってやらなければ気が収まらなかったのである。 『信じられません。犬を、命をなんだと思ってるんですか?』  キーを打ちこむ私は、きっと鬼のような形相をしていたことだろう。 『家族に迎え入れたい?どのクチがいいますか。ワクチンも躾も全部人任せにして、その可愛い子をタダで貰おうと?病気になったり太ったりしたら捨てるんですか、家族なのに?そんなものは家族とは呼びません、犬を自分のアクセサリー代わりにしないでください、不愉快です!』  一度のリプでは終わらなかった。怒りのまま、私は続きを書き込む。 『私にも、犬がいます。仕事で辛くて泣いていた時、恋人にフラれた時、その子はずっと私の傍に寄り添って最高の友人でいてくれました。親戚が赤ちゃんを連れてきた時も、けして噛んだりせず、叩かれたり尻尾を触られても怒ったりしませんでした。赤ちゃんが泣いたら叔母に教えに来てくれたのも彼だったそうです。犬は、そんな優しい生き物です。愛しい家族です。間違っても、あなたなんかの道具じゃない!』  私も、ポミーの写真や動画を載せるツニッターアカウントを持っている。辺境のアカウントなので、フォロワー数は三ケタ程度しかいないが、それでも私のリプライに対して想像以上に反響が集まった。私と繋がっている犬アカウントさん達が、次々援護射撃をしてくれたのだ。
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