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彼が探しているものは、太陽の光も月の光もよく反射するものなのだという。それは彼にとって宝物のようなもので、なくしてしまうとそれはそれは叱られてしまうし、生活に困ってしまうのだそうだ。
私は暫く彼に付き合って森の入口を探していたが、それらしい“キラキラしたもの”は一向に見つからない。ひょっとしたら森の中に落したのかもしれねえ、と彼は言った。
「もう時間も遅いし、暗いのは確かだ。怖いかもしれねえが、森の中も一緒に探してくれるか?」
「いいよ」
「即答かい」
「うん。私も家に帰りたくなかったから」
「お前さんも、なんか事情があるんだなあ……」
手伝っているのはこちらだが、そう言って貰えるだけでちょっとだけ嬉しい。私は彼に言われるがまま、森の中に足を踏み入れた。
この田んぼぞいの森は、道があまり整備されていないこともあって普段は入るなと言われている場所である。なんでも、あちこちぬかるんでいたり、底なし沼があるなんて噂もあるのだそうだ。昔はここに神社があったのだけれど、それが空襲だか地震だかに見舞われて潰れてしまい、以来殆ど手つかずのまま荒地になっているのだとかなんとか。不自然なほど木々だけが鬱蒼と生え、まるで神社の残骸を覆い隠すようになってしまったのを地元の人が恐ろしいと思っているらしい。その神社の神様が近づく人間を祟るとか、森の中には妖怪がいるのだとか、まあそんな怪談のようなものも少なからず耳にしたことがある。
――そういえば、この森の中に入って度胸試しをやれとか、そんなこと言われたことがあったっけ。
年上の子達に急かされて、森の中に追い立てられそうになったことがあったのを思い出した。たまたま先生が通りがかって止められたので、結局森の中に入ることはなかったのだが――何故だか自分が一人で森に侵入しようとしていたことになってしまい、酷く叱られたのを覚えている。
あれ以来、先生という存在は信用ならないものだ、と認識させられたのだった。多数の意見がそう、だと言ったら、いくら私が無実を訴えても信じて貰えない。もし私の家が昔からこの地域に住んでいたなら、もう少し先生も耳を傾けるということをしてくれたのだろうか。
――あの時この森に入っていたら、どうなっていたのかな。
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