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「やっぱりここにあったなあ」
彼は台所らしき場所に行き、探していた“宝物”を手に取った。途中から、私もひょっとしたらそうではないかと思っていたのだ。彼が持っていた、光を反射するキラキラした棒状のもの。それは、しっかりとしたつくりの黒い柄を持つ、一本の包丁だったのだった。
私はそれを見て言った。
「見つかって良かったね。……私、テーブルの上に横になればいいのかな?それとも、あなたに首を差し出せばいい?」
「何でそう思うんだ、実花乃?」
「だってあなた、妖怪の“くびとりさん”でしょう?」
多分、彼もどこかで予想していたのだろう。お前さんいつから気づいてたんだ、と尋ねた。
それはこちらの方が不思議だ。むしろどうして、気づかないと思ったのだろう。
「だって、この町では有名だもの。森の近くで、探し物をしている子供がいたら妖怪だから気をつけろって。くびとりさん、と呼ばれる妖怪が、この森にあった神社の神様に仕えてるんだって。その神様に捧げる生贄を探し続けてる。とてもかわいらしい見た目の男の子で、探し物を一緒に探してくれと頼まれるけど、それを承諾すると森の中に連れ込まれて一生帰って来れなくなるって」
「……そこまで知ってて、なんでついてきたんだい」
「だって」
私はランドセルをテーブルの上に下した。中には筆箱も、教科書も何もかも入っていない。
当たり前だ。今日トイレに投げ捨てられて、全部ゴミになってしまったのだから。持って帰ることができるものが、このからっぽのランドセルと、ポケットに入れたままの携帯電話しかなかったのである。
「帰りたくなかったんだもの。私、叱られる。教科書もみんなダメにしちゃった。いじめられてるなんて言えない。お前が弱いからいけないんだって、言われるだけ」
ランドセルを置く己の、痣だらけの手が嫌いだ。子供の頃からの生まれつきだった。痣は手どころか、足にも顔にも浮かび上がっている――まるで呪いか何かのように。
髪の毛はあちこちが剥げている。私は女の子なのに、髪をまともに結んで貰ったこともない。
身体は太っているし、頬も腫れたよう。鼻は潰れていて、目は妙に小さい。そのくせ、眉毛だけはぼうぼうに生えていて、到底女の子らしい顔とはお世辞にも言えない。
つまり、それが私だった。
町の外から来た金持ちの娘――よそもの。その上、恐ろしく醜い見た目。狭い田舎の学校で、いじめられない方がどうかしているというものだ。
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