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大手企業がスポンサーで大手書店が企画した「未来の自分はどう輝いている?」というテーマで、小学生の広瀬瞬が公募で優秀作品に選ばれた。ほんの4年前のことである。現在、高校1年生の男の子である。
お弁当作りが上手な瞬に恋する少女が中嶋咲紀、同じく高校1年生。
毎日のお弁当が、彼女にはたまらなく嬉しい。小学生の時に約束した「結婚しよう。」を抜きにしても、瞬のお弁当は食べたいものだ。
色鮮やかなお弁当は、彩りだけでなく、栄養も考えられてある。そのことも咲紀にはありがたいのだ。
瞬は中嶋家の隣に住んでおり、いわゆる幼馴染の関係だ。親同士も仲が良い。瞬は毎朝欠かさず、手作りのお弁当を持ってきてくれる。だが、それには理由がある。咲紀が小学校に入学する前、咲紀の母、咲良が病で倒れ、この世を去った。以降、父と娘だけの生活になった。
咲紀の父、紀明は、朝食と夕食は、なんとか用意できたものの、お弁当までは準備できなかった。幼稚園の頃は、時々お弁当を持たせるだけでよかったのだが、私学の小学校に通わせると、お弁当を持たせる必要があった。だが私学の小学校に通わせた。
私学の小学校に通わせたのは、将来教員を目指す大学生が放課後小学生の勉強を見たり、高学年の部活のサポートをするという勉学を兼ねたボランティアに参加するという、その学校独自のシステムがあった。付属小学校なので、本学の大学生が参加する。放課後も預かってくれるように希望を出せば、学校が見てくれるので、放課後預かりを希望した。紀明からすれば、助かるシステムだった。
しかし仕事をしながらの子育ては中々難しく、隣の広瀬家に預けることもあった。預ける内、咲紀と瞬が仲良くなっていった。
咲紀を預けていく内、瞬の母、弥生から、「紀明さん、1人で大変でしょう。お昼のお弁当は私が作るわ。2人分も3人分も変わらないし。」と提案され、瞬の父、幸成も「紀明さん、営業主任だし、だんだん忙しくなってるだろう。困った時は頼っていいんだから。」と言ってくれた。肩の荷が降りたような気がした。広瀬夫妻の言葉に甘えることにした。
瞬は小さい頃から、弥生がキッチンに立つと、横について弥生が料理をするところを観察するようになっていった。年長になる頃には、お手伝いを覚えた。テーブルセッティングしたり、野菜を洗ったり、野菜の皮をむいたりと、できることを増やしていった。小学校に入る頃には、卵焼きができるようになった。
咲紀は、瞬が初めて卵焼きを作った時、それを食べた。瞬が卵焼きの形が不恰好だったことに泣いてしまった。咲紀が「瞬ちゃんの卵焼き、食べたい。」とおねだりし、「あーん。」と咲紀は口を開け、瞬は涙を流しながら、フォークで卵焼きを食べさせた。「うーん。甘くて美味しい。」と蕩けるような笑顔を見せた。瞬はその笑顔にときめいた。それからは、「咲紀ちゃんのお弁当は僕が作る。」と弥生に言い、最初は手伝ってもらいながら、お弁当作りを覚えていった。全部を作れなかったが、「今日のたこさんウィンナー、僕が作ったんだよ。」と言うと、「本当?可愛いたこさんウィンナーだね。ありがとう。」と咲紀は微笑んだ。瞬は花のように笑う子だな、と思った。
そして3年生になる頃には、1人で作れるようになった。
そして、現在へと瞬のお弁当作りは続く。
瞬の手作り弁当には思い出がある。
今でもそれは忘れられない。
ふと思い出す。
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