体育祭

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咲紀は瞬が「咲紀ちゃんが1位になれるようにお弁当を作ってあける。」と言ってくれて、瞬は白御飯に海苔で「ファイト」や「ガンバレ」や「勝てるよ」と応援してくれているのに、その期待に応えられなくて、悔しかった。 徒競走の練習でずっと1位になれなくて、ベッドの上で何度も泣いた。瞬の前では絶対に泣くもんか、と決めて、涙が溢れそうになるのを堪えた。 運動会当日。「ただいまより菊峰小学校第○回運動会を開催します。」とアナウンスが運動場に響く。 「咲紀ちゃん。頑張ろうね。」 「うん。」 咲紀は自分でも短い返事しちゃったな、と後悔する。前日の練習でも1位になれず、悔しくて泣いた。 大玉転がしや玉入れを行っていった。この競技の時はなんとか笑顔でやりきった。 「これで午前の部を終わります。」とアナウンスが響き渡る。 咲紀は楽しみだった運動会なのに、徒競走が午後に控えており、憂鬱な気持ちで昼休憩を迎えた。 咲紀は広瀬家と紀明とお弁当を食べることになっていた。レジャーシートの上で瞬は大きい重箱の蓋を開けていく。重箱には俵型のおむすびに、海苔で文字をデコレーションされている。1段目に「ガ」「ン」「バ」「レ」「絶」「対」「1」「位」「と」「れ」「る」と一つずつ装飾されているおむすび。2段目におかずは唐揚げ、ハートの形の卵焼き、アスパラベーコン巻き、ゆで卵をギザギザに切れ込みを入れて半分にしているもの、プチトマト、3段目にたこさんウィンナー、人参豚ロース巻き、ちくわきゅうり、ピーマン肉詰め、ブロッコリー、ハート型のハンバーグ。 瞬は紙皿におむすびとおかずをいくつか取り、咲紀に渡す。 「咲紀ちゃん。午後からは徒競走だね。これを食べたら、絶対1位になれるよ。」 瞬は笑顔で言う。咲紀は紙皿に置かれた「1」「位」のおむすびを見て、咲紀の感情が爆発してしまった。咲紀は差し出された紙皿をパシッと跳ね除けた。 「咲紀っ!なんてことをするんだっ。謝りなさいっ。」 紀明が咲紀を叱る。 「こんなの食べても、1位になれないよっ!」 咲紀は目に涙を貯めて、靴を履き、走って木陰の所で隠れた。 「咲紀がすみません。瞬君も一生懸命作ってくれたのにごめんね。あとで咲紀に謝らせるから。」と紀明は申し訳なさそうに言った。「ううん。咲紀ちゃんの気持ち、ちゃんと考えてあげられてなかった。咲紀ちゃん、徒競走の練習でずっと1位になれなくて悔しかったのに。」と瞬は落ち込む。 「咲紀を連れてきます。」 紀明が立ち上がろうとする。 「ここは僕に任せて。」 幸成が立ち上がる。「パパに叱られたのもあるし、素直に戻ってこれないかもしれないから。」と幸成は言う。「それは、咲紀が、」と言うと「まぁまぁ、紀明さん。ここは主人に任せて。」と弥生は言う。 「すみません。よろしくお願いします。」 「任されました。」と幸成は咲紀が走っていった方へと向かった。
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