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咲紀はお弁当を見て泣いた。あの日の思い出が走馬灯のように流れてくる。
ただ1つ。違うのは。
重箱には俵型のおむすびに、海苔で文字をデコレーションされている。1段目に「咲」「紀」「は」「僕」「の」「日」「常」「の」「全」「て」と一つずつ装飾されているおむすび。2段目におかずは唐揚げ、ハートの形の卵焼き、アスパラベーコン巻き、ゆで卵をギザギザに切れ込みを入れて半分にしているもの、プチトマト、3段目にたこさんウィンナー、人参豚ロース巻き、ちくわきゅうり、ピーマン肉詰め、ブロッコリー、ハート型のハンバーグ。
瞬が咲紀が何で悩んでいるのか分かっているみたいだった。いつも咲紀を見ていてくれるそのことが嬉しい。文字でデコレーションされたおむすびを見てそう思った。
瞬に迷惑かけた瞬の気持ちを無碍にして、瞬から離れようとして。できるわけがないのに。
「瞬ちゃん…。私、瞬ちゃんに、迷惑かけてる、のに、瞬ちゃんの、時間、奪った。ごめんね?毎日、朝の、早くから、起きて、お弁当を、作って…。私、気付かなくて…。時間、返せなくて、ごめんね?お荷物で、ごめんね…。瞬ちゃん…。瞬ちゃん…。」
咲紀は嗚咽をしながら、話す。瞬は咲紀の頬に触れて、親指で涙を拭う。
「咲紀ちゃんのお弁当を楽しんで作ってるんだよ?咲紀ちゃんが僕の楽しみ奪わないで。それこそ奪わないでよ。」
瞬は微笑んだ。
「でも…。私、もう高校生だし、自分で、作らなきゃって…。瞬ちゃんを、離さなきゃって…。」
「僕は自分の時間、犠牲になったとも思ってないし、それに咲紀ちゃんはお荷物なんかじゃないから。ありえない。これからも咲紀ちゃんと一緒にいるよ。咲紀ちゃん。僕は言ったよね?咲紀ちゃんは僕の全てだって。」
「うん…。」
「だから、これからも僕は咲紀ちゃんのお弁当を作るよ。」
瞬は咲紀の両手を握る。
「ありがとう…。」
咲紀は微笑んだ。
「咲紀ちゃん…。大好きだよ。」
「私も、瞬ちゃんが大好き。」
咲紀は涙を拭って微笑んだ。
「おーい。お2人さーん。戻ってこーい。」と立花が瞬と咲紀の目の前で手を振る。「わっ。」と咲紀は驚く。
「良かったわね。咲紀。」
そう言って雛は微笑んだ。
「でもさ、咲紀ちゃんがこう思ったのって何かきっかけがあったんじゃないかって思ってたんだけど。」
「思ってた?」
瞬は立花の言葉に何かひっかかった。
「立花。咲紀ちゃんから聞いてたの?」
「えと、なんていうか…。」
立花は咲紀と話さないと約束していたので、肯定できなかった。
「はっきり言いなよ。」
瞬は怒ったようなそんな口調で立花に言う。
「それは、だってさ、」
「そんなことより、咲紀がこうなったのは何かきっかけがあるんじゃないかってことでしょ。」
雛が遮るように話す。
「そうそう。」
立花は助かったぁ、という表情を浮かべていた。
「咲紀。何かきっかけがあったはずだよね。」
「咲紀ちゃん。もしそうなら教えて欲しい。」
瞬は真剣な目で咲紀を見つめる。
「それは…。」
全てを話せば、来海のことを話さなければならない。
「言いたくない?」
瞬は困ったような表情をしていた。
咲紀は言って楽になれるのなら言いたい。来海が瞬を好きだと言ったことを忘れられるほど、楽にはなれないのだ。チクリと胸が痛い。
「咲紀ちゃん。言ってみたらなんてことなかったってこともあるよ?瞬に言ったらいいんだよ。」
「立花君…。」
「広瀬が咲紀を想ってるのと同じで私達も咲紀のこと、想ってるよ。だから、咲紀の悩んでることとか、共有して欲しい。」
「雛ちゃん…。」
咲紀はまた目に涙を溜めた。「泣かないで。」と瞬は咲紀の頬に触れ涙を親指で拭った。
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