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自宅の最寄り駅へと続く道を瞬と咲紀の2人で歩いて行く。車1台分が通れるぐらいの細い道だ。紀明はバス停へと向かうため、反対方向を歩いて行った。小学校から持ち上がりでずっと私学に通っている瞬と咲紀は歩く道は変わらなかった。時々、反対方向に歩いて行く紀明の背中が淋しそうに見えた。なぜか今日とそう思った。先程の話を聞いたからだろうか。
「もうすっかり葉桜だね。」
瞬がしみじみして言う。
「そうだね。桜がもっと長い間咲いてたらいいのになって思うよ。」
瞬の前を歩く咲紀が振り返って言う。
「桜ってママの花だから。漢字は違うけどさくらだし。ママが春に亡くなったのもあって、桜が見られる時、ママに会える気がするんだ。」
「そっか。」
瞬は優しく微笑んだ。
「ねぇ、瞬ちゃん。」
「何?」
「パパ、なんでスカート直しなさいって言うのよ。短い方が可愛いのに。」
そう言って、ウエストの部分でスカートを巻いていって、また短くした。「これでよし。」とまた前を向いて歩き出した。
「咲紀ちゃん。」
そう言って、腕を捕らえて引っ張る。「あっ。」と咲紀は後ろによろめく。瞬はそれを見逃さずに抱き留める。
「瞬ちゃん?」
咲紀は瞬の顔を見上げる。
「おじさんは咲紀ちゃんが心配なんだよ。」
「もう高校生だよ?」
「だからだよ。どんどん魅力的になるんだから。自衛の意味も込めて、ね?直そうか。」
瞬は咲紀の頬を左手で蛸の口になるようにぎゅっと摘んだ。「タコチュウ。」と言って、グイグイと摘む。咲紀の顔がみるみる赤くなる。「茹で蛸みたい。可愛い。」とからかう。「しゅ、瞬ちゃん。離して。」と恥ずかしそうに言う。「はい。」と優しく肩を押し、咲紀の身体を離す。
身体を離され、冷静になって考えてみると瞬の言っていることが分からなくもない。だが制服にファッション性を持たせたいし、紀明や瞬の言う「自衛」も必要なことも分かる。そういう意味では「やらかす」方が完全に悪いのだが。
性質の悪いことに瞬は「僕の前だけはいいよ。」と耳元で囁くように言ってのける。咲紀は「瞬ちゃんっ!」と顔を赤くして瞬をキッと睨む。いつもは「男の子」で可愛いのに、急に「大人の男」だと思わせる。その匙加減がうまい。そんな顔して言われたら、逆らえるわけがない。未来の瞬を見ているようだ。だから咲紀はスカートの丈を直すのだ。
「行くよ。」と瞬は先を急ぐ。「待ってよ。」と瞬を追いかける。
交通系ICカードを取り出し、改札機にかざす。「もう電車来るよ。」と瞬は言う。時計を見ると、学校の最寄駅に行く方面の電車が1分後に来る。ホームまで少し離れており、ホームに行くには階段を上る必要がある。「走ろう。」と言って、手を繋ぐ。
階段を上りきったら、丁度電車が到着し、乗り込んだ。「はぁ。」と瞬は言う。「体力ないなぁ。」と咲紀は笑う。「咲紀ちゃん、はぁ、みたいに、運動部に、はぁ、入って、ないから。」と息を乱して、答える。「瞬ちゃんはクッキング部だもんね。」と咲紀は言う。「そうだよ。走るなんて体育以外でほとんどしないよ。」と瞬は苦笑いする。
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