体育祭

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咲紀は瞬の想いを聞いて、涙が止まらなかった。ポタポタと零していく。瞬がずっと咲紀を想っていてくれていることが分かり、心が震える。「結婚しよう。」と言ってくれたこと、嘘じゃなかったんだ、と咲紀は嬉しくなる。 「瞬ちゃん…。私は、瞬ちゃんのこと、小さい頃からずっと好きだよ。お弁当を作ってくれて美味しいって感想を伝えた時、嬉しそうに笑ってくれて。その笑顔が可愛いって思ったの。好きになったよ。それにね、瞬ちゃんが大きくなってかっこよくなるんだもん。私ばっかりドキドキして、心臓壊れるかと思ったよ。瞬ちゃんの行動1つ1つがドキドキして、心を鷲掴みにするの。心を奪ってくの。幼馴染の好きだけじゃ物足りなくなって、でもどうやって伝えればいいか分からなくて。」 咲紀は涙を拭った。 「瞬ちゃん。私を瞬ちゃんの彼女にしてください。いつか瞬ちゃんの妻になりたいです。ずっと傍にいて欲しいです。未来を歩むなら貴方と一緒がいい。私を選んでください。瞬ちゃん。大好き。愛してる。」 そう言って微笑んだ。 会場中が「ふぅー。」、「ひゅー。」と声を上げる。 和希がゴホンと咳払いをする。 「これより牧師様のお言葉を頂戴します。」 凛の声が響き渡る。 放送席で待機している立花と雛は、ある物を持って再び瞬の元へと移動する。瞬と咲紀の後ろに控える。 牧師に扮した和希は、宣誓文を読み上げていく。 「汝、新郎、広瀬瞬さん。貴方は新婦、中島咲紀さんとお付き合いをし、いずれ結婚します。これを愛し、慈しみ、癒し、尊敬する心を忘れず、真心を込めて、共に協力し、生きていくことを誓いますか?」 「はい。誓います。」 「汝、新婦、中島咲紀さん。貴女は新郎、広瀬瞬とお付き合いをし、いずれ結婚します。これを愛し、慈しみ、癒し、尊敬する心を忘れず、真心を込めて、共に協力し、生きていくことを誓いますか?」 「はい。誓います。」 「ではお弁当箱の交換を。」 「お、お弁当箱?」 咲紀と瞬は指輪じゃないんだ、と驚く。 「あなた達はお弁当箱が似合います。」 和希が牧師の口調でそう言う。 「そうだね。」 「僕達らしいね。」 そう言って微笑み合う。 瞬は立花からお弁当箱を受け取り、咲紀に差し出す。咲紀はお弁当箱を奉るように腰を屈めてお辞儀をする。咲紀は雛にお弁当箱を渡し、咲紀は雛から瞬に渡すお弁当箱を受け取り、瞬に差し出す。瞬も同じようにお弁当箱を奉るように腰を屈めてお辞儀してをする。 「では誓いの口付けを。」 「え?え?」と咲紀は顔を真っ赤にして驚いている。会場中から「キース、キース、キース。」と囃し立てられている。 「瞬ちゃん…。」 咲紀は上目遣いで瞬を見つめる。 「咲紀。少し屈んで。」と雛から声をかけられる。咲紀は雛の言う通りに腰を落とす。 瞬はベールをめくるように後ろに持っていく。 「目、閉じて。」 瞬は微笑んで言う。 咲紀は見られることは恥ずかしいと思ったが、意を決して目を閉じ、唇を待つ。瞬は咲紀の腕に触れる。咲紀は唇に来ないな、と思って目を開けると、瞬はクククっと笑っている。 「私一人だけ恥ずかしいじゃんっ。」 咲紀はそう言った瞬間に、瞬は咲紀の額に口付ける。 「あっ。」 瞬の唇がゆっくりと離れていき、咲紀は頬を桃色に染め、額に触れる。 「今はここまで。」 瞬は照れたような表情を見せて、微笑む。 音楽がポップで明るい洋楽に変わり、会場中が「ふぅー。」と盛り上がった。拍手が巻き起こる。 「咲紀。おめでとう。」 雛が微笑んだ。 「雛ちゃぁぁん。」 咲紀は雛に抱き着く。「抱き着く相手が違うでしょ。」と雛は咲紀を瞬に押しつけるように押す。瞬は「おっと。」と抱き留める。 「これよりペアダンスを始めるぞ。」 凛が放送席からそう言うとペアダンスに使う音楽が鳴り始める。 「イェーイ。」といつの間にか入場門にいたクラスメイト達がトラックに走り寄って、立ち位置に位置する。立花と雛は瞬と咲紀をトラックの中心に移動させる。 咲紀と瞬は練習の時は目を合わさずに、笑顔を作れなかった。あまり上手く噛み合わなかったが、今はもう違う。2人は笑顔で踊っている。咲紀は左手でハートの半分を作り、瞬は右手で半分のハートを作り、重ねる。それを弾けさせて、身体をくるりと回し、スカートを翻す。 中盤に咲紀と瞬を囲うように全員が片足で膝立ちをし、手拍子をしながら、場を盛り上げる。咲紀は瞬に飛び乗るように抱きつくと、瞬は咲紀を抱き留め、くるりと回る。咲紀を降ろし、咲紀の手を取り、お辞儀をする。咲紀はスカートを持って左足を交差するように右足の後ろに持っていき、お辞儀をする。瞬は胸に手を当て、お辞儀をする。 全員が立ち上がり、自由に踊っていく。会場が手拍子をして、ペアダンスを盛り上げる。 そして体育祭は幕を閉じた。 こんなに楽しかった体育祭は初めてだ。 一生忘れられない思い出だ。 ずっと忘れない。 何があっても。 誓い合った言葉を胸に生きていく。
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