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狭い車内
#2
救急車の中では救急隊員が矢継ぎ早に質問をしてくる。
寝たままなので、隊員の顔は見えない。
胸の痛みはあるがひどくはない。一刻をも争う心筋梗塞はこんなものなのかと思う。
だけど心臓はいつ止まるかわからない。
そのギャップが奇妙な感覚をもたらす。
救急車の中で、僕の短い人生は幕を閉じるのだろうか。
18年。
短かすぎやしないか。
乗った瞬間、目の前にマスクを差し出される。
「お願いします」
「え、マスク必要ですか」
「病院の決まりなもので」
「でも、コロナってもう・・・」
「お願いします」
有無を言わせない物言いだった。しかたなく、マスクを装着する。
「家の人には、連絡しましたね」
隊員の言葉に、救急車の天井に設置された直径32.5センチの丸いライトを見つめながら答える。
「留守電に入れました。たぶん学校からも連絡がいっていると思います」
母親は、仕事中にはどんなことがあっても電話には出ない。というか、出られない。
食品の加工工場の流れ作業だから、工場に電話したとしても、すぐにその場を離れることができないのだ。よほどのことがない限り工場には電話しないでと釘を刺されていた。
今回のことは、よほどの部類だろうと判断しケータイに電話したが、留守電になったのでメッセージを残した。
「胸が痛くて秋本医院にきたら、心筋梗塞だって。救急車で隣町にある光が丘総合病院にこれから行くので、母さんにも来るようにと言われました。よろしくです」
母は来るだろうかという不安は、どこかにはあった。
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