第九章-α 『黒銀の決戦』

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「……ふぅ、ここら辺りでいいでしょう」 「……」 「……」 事件現場とはまた違う、ロイヤルメイデンも含む建物に囲まれた裏口へとやって来た俺達。 店から連れ出した男はポケットから電子タバコを出して、先の俺達が見つけ出した葡萄のフレーバーの臭いと全く同じものを吸い始めた。 「それで……何のご質問でしたっけ?」 「はい、昨日の事件が起きた午後七時頃……貴方は何処で何をしていたかを教えて頂きたいのです」 「仕事ですよ。その時間は歌舞伎町の外で働いていました」 真緒さんからの質問に焦る様子を見せる事無く、タバコの煙と葡萄の臭いを顔に纏わせながらそう答えた男。 歌舞伎町の外にいたと聞いて、事件とは何の関係も無いと思ってしまう所……だが現段階で男の事を何も知れていない以上、相手は俺達にいくらでも嘘をつく事が出来る。 「……失礼ですが、普段は何をされているお方なのですか?」 「……申し遅れました、私こういう物でしてね」 そして次に俺が質問を投げかけると、男は待ってましたと言わんばかりに俺達に名刺を差し出してきた。 「……文月宝石店?」 「はぁい、そして私がその店の社長である文月と申します」 「普段はこの歌舞伎町の中に店を構えていましてねぇ、最近は銀座にも支店を出そうと思っていた所なんですよ」 「なので昨日は下見という事で、銀座の方に行っていたという訳です」 「なるほど……」 右手の人差し指にある、黄緑色の宝石がついている指輪を、通りの方から漏れてくる光に輝かせて、自身のアリバイを説明する文月。 もしそれが本当であるならば、銀座に行って彼の姿を見たという物を探して、調査をしていく所だが…… ……我々には過去を遡っていくまでも無く、犯人に一気に近づく事が出来る決定的証拠を握っていた。 「貴方が今吸われているその電子タバコ、その葡萄のような甘い臭い……それは事件当時に現場で残されていた物と、全く同じ臭いでした」 「ほう、確かにこの味は私がよく愛煙しているタバコですが、それだけで犯人だと疑われるのは……それにこの味で吸われているのは、私以外にも沢山の方がいらっしゃるのでは?」 「いえ……別に私は、まだ貴方が犯人だと決めつけている訳ではありません……そこで一つ、お願いがあるのですが宜しいですか?」 「お願い……? 何ですか? 警察署になら行きませんよ?」 「貴方の髪の毛を一本……頂きたいのです」 「……髪の毛?」 警察である真緒さんと会話をしていても、常に半笑いの余裕そうな態度で彼女と質疑応答を投げ合う文月。 しかし真緒さんの提案により……文月は真顔になって彼女の言葉を繰り返した。 「はい、現場にはタバコの臭いだけでは無く、犯人の物と思われる……痕跡が、被害者の身体に残されていたのです」 「署までご同行頂かなくても髪の毛さえ頂ければ、後は我々がDNA鑑定やらで調べますので……」 「どうか髪の毛だけでも、お忙しい所恐れ入りますが……我々の捜査にご協力頂けないでしょうか」 「あ……お願いします」 ここでも普段は絶対に見れない、丁寧な口調で文月に頭を下げる真緒さん。 相手は組の家族を殺された仇かもしれないのに……敵意を感じさせない、こちらも合わせてしまう程の礼儀正しさだ。 そんな真緒さんを見蕩れつつ……再び俺も、真緒さんに合わせて頭を下げる。 「……ふっ、いいですよ」 ……そして文月の顔に再び笑顔が戻ると、彼はゆっくりと右手を頭の方に上げた。 「……ありがとうございます」 真緒さんが顔を上げて礼を言っている間に、文月は一本の髪の毛に指を摘ませた。 「……」 そして後は髪の毛を引っこ抜くだけかと思いきや……文月は髪の毛を抜かずに、腕を上げて指を鳴らした。 「!」 ……それが合図だったのか音が鳴ったと共に、背後から数人の足音が聞こえて気配を感じる。 振り向くと文月とは違い、ガラの悪い男達が数人……一番街通りに戻る道と、もう一つの抜け道の方の退路も絶たれ、俺達は完全に包囲されてしまった。 「真緒さん……!」 「……貴様、何のマネだ」 「やはり会いに来ると思っていましたよ……貴女、帝組組長のお嬢様の帝真緒さんでしょう?」 「警察であっても流れている血は極道の物……身内を殺されて最初に疑うのは、ヤクザの事を恨んでいそうな我々ですか」 「……では、貴方達がその……」 「如何にも、宝石店社長は表の顔……私はこの歌舞伎町に暗躍する怒澪紅の……経理担当といった所でしょうか」 「そう言う貴方の、その胸につけている皇の代紋……警察では無い筈の貴方が、私達に会いに来ているのは組の命令だからですか?」 「……はい」 ……遂に対面した、一年前は会えなかった、正真正銘の怒澪紅のメンバーであった文月。 見た目のガラが悪そうな者だけでなく……こうした普通の見た目をしている人間でも、裏の組織に入っているのだと改めて確信した瞬間であった。 「……では貴様が、私の姉を犯して殺したのか ?」 文月がイエスのイを言った瞬間に、すぐさま彼の頬に拳が飛んでいきそうな程に…… 最早冷静さの欠片も無い、真緒さんは殺意ある瞳で文月を睨みつけている。 「……"私は"殺していませんよ」 「……私は?」 「少なくとも、私から貴女方に教えられる事はそれぐらいでしょうか……私も一応は怒澪紅のメンバーであるので、仲間を売るような情報は提供出来ません」 「ここにいる以外の仲間はどこにいる……言えッ!!」 そうして真緒さんが文月に向かって飛びかかった瞬間…… 「!……真緒さん!」 後ろにいた筈の、身長が二メートル近くありそうな巨漢の男が、いつの間にか真緒さんと文月の間に移動しており、真緒さんの拳を受け止めた。 そして男は拳を押して、真緒さんを突き飛ばす……そのまま体勢を崩さないように、俺は真緒さんの背後に移動して受け止めた。 「くっ……!!」 「大丈夫ですか……?」 「……そんなに会いたければ、会わせてあげる事だけは出来ますよ」 「何……?」 「……ですがアジトの場所などの機密事項があるので、お二人には目隠しをして頂きますが」 そして周りいる男達は俺と真緒さんを囲み……ジワジワと距離を詰めてくる。 これから俺達を、そのアジトとやらに連れて行く気でいるのか。 周りにいる男達からは戦意は感じられない……このまま大人しくしていれば、アジトに連れて行かれるまでは危害を加えられなさそうだが…… 「……ふざけるなァ!!」 「うおっ!?」 ……しかし真緒さんは言う事を聞くまでも無く、肩に手を置いてきた先程の巨漢の男の腕を掴み、そのまま一本背負いを決めた。 「ぐわぁ!?」 「っ……テメェ……!」 「ほう、噂通りお強いですね。流石に極道の娘で警察なだけの事はある」 「何が機密事項だ……人の命がかかっている以上、力づくでも何でも話して貰うぞ……!」 「面白い……その力づくとやらを、見せて頂きましょうか」 「貴様ァ!!」 文月の挑発により、真緒さんは再び文月に飛び掛かろうとする。 「テメェ!! こっちが何も手出してねぇからって調子乗ってんじゃねぇぞ!!」 しかし男達も文月を守るように、真緒さんに拳を飛ばして彼女を止めようとする。 「邪魔だッ!!」 「ぐはぁ!!」 ……しかし、真緒さんは強い。 束になってかかってくる男達を、俺が守ってやる必要も無いと思わせる程に、自分の弱さを痛感してしまう程に……拳と蹴りを一発入れただけで、バッタバッタと倒していく。 「っ……!」 「らぁっ!!」 「このアマァ!!」 例え助けが必要なくとも、真緒さんを守らなければと戦況を伺うが……俺が立ち入る隙が無い。 だが何故だ……俺は真緒さんに加勢する事よりも、真緒さんを止めなければいけないような気がしている。 これ以上酷くならない為に……真緒さんが奈落の底へと落ち始めているような感覚だ。 「……ふぅ、仕方が無いですね」 早く手を引かなければ……そう思って真緒さんに向かって手を伸ばした瞬間━━━━ 「うっ……!」 ……暴れていた真緒さんが、突如ピタリと動きを止めて崩れ落ちた。 「……!!」 「……やっと大人しくなりましたか」 その先にいたのは……ピストルを持って真緒さんに向かって構えていた文月だった。 まさか……真緒さんを殺したのか!? 「真緒さん……? 真緒さんっ!?」 「安心してください、殺したのではありません……これは麻酔銃で、この人の事は眠らせたのです」 「えっ……」 「最初は穏便に事を済ませたかったのですが、やむを得ません……ほら連れて行きなさい」 「チッ……なんて奴だ、こいつ本当に女かよ……」 そうしてぐたりと動かなくなった真緒さんを……一人の男が抱きかかえて、男達は一番街裏口の更に闇深くへと姿を眩ませようとしていた。 「待ちなさい……!」 「大丈夫ですよ……貴方も連れて行きますから」 「!」 「ですが先程の帝さんのように、急に暴れ回っても困るので……貴方にも少し眠って頂きます」 「眠って貰うって……なにを 「おら寝てろ!」 「!?……う……っ……」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━ 「……」 ……あれからどれくらいの時間が立ったのだろう。 コンクリートのような平面で固い地面が……背中の骨に当たっている痛さで、俺は目を覚ました。 「!」 背後にいた男に、よくある薬品を湿らせた布で眠らされた所までは覚えている。 そして麻酔銃に撃たれて倒れた真緒さんの事を思い出し……俺は眠気をすっ飛ばすと共に身体を起こした。 「……?」 ……ここはどこだ? 先程の喧騒はすっかりと消えて……外からの冷気や風が筒抜けとなっており、月明かりが今いる空間の状況を照らし出す。 鉄筋がむき出しになっている壁、黒ずんだコンクリートの地面……何人足りとも立ち入らなそうなこの廃墟が、文月の言っていた怒澪紅のアジトなのであろうか。 「……」 ……ガラスが入っていない窓から顔を出して、外の状況も確認してみる。 どうやら俺は病院のような、長く広い四階建ての建物の一階にいたみたいだ……この廃墟以外にも外にもう二つ建物があり、都心かどうかも分からないこの敷地内は中々の広さを有しそうだ。 「……?」 心霊スポットみたいだと怯えている場合では無い。 とにかく真緒さんを探そう……その時、スラックスのアイフォンが着信を受けて震えているのに気がつく。 画面を見ると、ビデオ通話の応答を待機している状態で表示されていた……その電話番号とは、大分前に連絡先を交換していた真緒さんの物であった。 ……真緒さんの様態を確認する為に、すかさず通話開始のボタンを押す。 『……よう、テメェが……仁藤大和だな……?』 「……!?」 ……しかし、画面に映ったのは真緒さんでは無く、真緒さんとは全くの無関係である筈のスキンヘッドの男。 ……男は何故だか汗をかいており、苦しそうに息も上げている。 「貴方……どうして真緒さんのスマホを……!?」 『ここは元々ラブホでなぁ……今は俺達怒澪紅がアジトとして使ってるって訳だ』 『そしてこの建物の中のどこかに……俺達はいる』 「……真緒さんはどこです」 『お前の言う、帝真緒なら……ここにいるぜ』 『ッ!! やめろっ……映すなッ!!』 ……そうして男側のカメラが、内側から外側へと変わった瞬間━━━━━━ 『むぅ……うぅっ!! むっ……ふっ、んんっ……』 『あー気持ちいいっ、帝組組長の娘の口マンコは最高だな……』 『おらっ、こっちももっと舐めろよ……っ』 『んんん〜っ……!!』 「……!?」 四人の男達に囲まれて……次々と肉棒を口に入れられて、涙を浮かべる真緒さんが映し出された。 ……どうしてそうなっているのか。 奴等に優位を取られた時点で、俺達をアジトに案内するだけでは無いと感じてはいたが……まさかここまで追い詰められていたとは…… 「真緒さん……!!」 『大和っ……見る、なっ……!!』 『おい歯ぁ立てんじゃねぇ、もっとペロペロ舐めろ』 『ううっ……』 『あー上手いぞお前……っ』 「……!!」 ……最早帝組殺しの犯人が怒澪紅である事などどうでもいい。 真緒さんを助けて……真緒さんを穢した者達に報復をする殺意が、今後の目的として脳内を埋めつくしていく。 『うっ……イクっ……おらザーメン全部飲めよ……』 『うっ……むっ……!? けほっ、こほっ……ぐっ……』 『ふっ、あんなに強かったテメェも、チンコに囲まれてたらただの女だな』 『貴様ァ……!!』 そうして精液を口から垂らしながら、真緒さんが男達を睨み上げた所で……カメラが再び内側へと切り替わった。 『おら、とっとと助けに来いよ仁藤……早く来ねえと、この女俺達で妊娠させちまうぞ」 「……」 『……まぁ無事に、俺達の所に辿り着けるかどうかだけどな』 『これから仁藤を倒した奴が帝真緒を犯せるって条件で、沢山の仲間がテメェを襲いにやってくる』 『そいつらを倒して……本番にならない内に、俺達の元に辿り着けるといいな』 「……良いでしょう、望む所です」 『それじゃあな、幸運を祈ってるぜ……ゲームスタートだ!』 その最後で通話は切れて……スマホの画面が暗闇へと戻る。 あまり感情を表に出す事が出来なかったが……語彙力を失うレベルで、俺は怒り狂いそうであった。 そして本人の前でも誓ったのに……真緒さんを守る事が出来なかった悲しさ。 奴等に言いたい事が言えなかった、もしかしたらそれ程怒ってないのかと思われてしまいそうな態度だったが……今の怒りなら、手に持っているスマホを握り潰す事が出来そうだ。 しかし奴等の為に、斬江に買ってもらったスマホを失う必要は無い……それにこの怒りは、これからやってくる怒澪紅達にぶつければ良いだろう。 「……あっ、いたぞ!」 アイフォンをポケットに入れて深呼吸をした所で……早速第一怒澪紅達が俺の前に現れた。 「おら死ねやァ! 仁藤!」 「……」 ……今は真緒さんがいない代わりに、奴等に集中して戦闘を行う事が出来る。 男達は皆笑いながら、この状況をゲーム感覚として楽しんでいるように拳を飛ばしてくる。 「……はぁっ!!」 「がはっ!!」 「!?」 強いのは真緒さんだけじゃない。 俺も歌舞伎町に来た頃から斬江に鍛えられている身……真緒さんを守りたいという気持ちを持つぐらいに、それなりの戦闘には自信がある。 ……それを奴等にも思い知らせてやらなければ。 「……真緒さんはどこにいるのですか?」 「っ、知らねえ……よ!!」 最初に殴りかかってきたものの、俺に腕を折られて沈んでいる男を見て……他の男達は一瞬だけ動揺を見せたが、また集団で一斉に俺の急所を狙ってくる。 「っ……はぁ!!」 「がはっ!!」 「なんだこいつ!?」 だが奴等からは拳を当てさせない……指一本触れさせたくも無い。 しかし回避しているだけでは時間が押してしまうので、避けながら反撃とカウンターをしながら男達を倒していく。 「……言わないのであれば、貴方方に用はありません」 「テメェ……調子に乗んな!!」 「ふんっ!!」 「がっ……はっ……」 本当は一人だけを残して尋問をすればいいものの……結局無意識に全滅させてしまった。 場所を聞けないのであれば、自力で真緒さん達を探すまでだ。 いずれ倒しながら走り回っていれば、辿り着けるのだろうか……しかしそれでは体力と時間の無駄だ。 今度は一人だけは残しておくようにしよう……這いつくばっている男達の身を乗り越えて前へと走る。 「へっ……見つけたぞテメェ」 「……!」 それから階段を登り、二階へ登ろうとすると……今度は踊り場で十人の男達と遭遇をした。 そして一階からも、十人の男達が階段を登ってきた……挟み撃ちという奴だ。 「追い詰められたな仁藤……テメェももう終わりだ」 「テメェら手出すんじゃねぇぞ、こいつは俺が殺る」 「……」 二十対一では勝てる訳が無いと、途方に暮れている場合では無い。 今も尚真緒さんは穢されているが、これ以上酷くならない為にも、俺は絶対に倒れる訳にはいかないのだ。 「一人一人相手をしていられる程、こちらには余裕がありません……まとめてかかってきなさい」 「ほう……大した自信だなテメェ」 「そう言って顔の原型が無くなっても……後悔すんなよッ!!」 「死ねやァ!!」 「……!!」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「はぁ……はぁ……!」 「て、テメェ……!」 ……流石に疲れた。 しかも二十人、四十本からなる拳を全て防ぎ切る事が出来ずに、何回かダメージを喰らってしまったが……それでも一人を残して全滅させる事が出来た。 「……では幾つかお尋ねします」 「ぐっ!!」 男達の体で足元が悪くなっている中……俺は怖気付いている男の首を掴んで、壁に押さえつけた。 「貴方達は……何が目的でこんな事をするのです?」 「へっ……ヤクザってのはな、あの歌舞伎町では最早いらねぇ存在なんだ」 「えっ……?」 「ヤクザらしいシノギも何も出来なくなった以上、ビビる必要は何もねぇ」 「だが一般人から恐れられてる奴等である事は変わりが無えから……俺達が掃除してやってたんだよ……」 「!!……じゃあ今までうちの兄貴達を襲っていたのも……帝組の女性組員を殺したのも……!!」 「ああ……俺は違うぜ? やったのは別の奴等だ……でも犯人は、何となく見当がついてんだろ?」 「……はい」 「俺はただ……そいつらから話を聞いただけで何も……」 「!……待ちなさい、まだ真緒さん達の居場所を聞いていません」 「ぐっ……」 「……」 それから男は怒澪紅の目的を話し……俺に首を掴まれたまま落ちてしまった。 ……では何故真緒さんの事も穢す。 警察でも極道の血が混ざっているからか……? それともシンプルに女だから嬲っているのか……? いずれも早く、真緒さんの事は助けなければならない……今度こそ男達に遭遇した時は、真緒さん達の居場所を聞くようにしよう。 ……皇組としての報復を考えたりするのは、真緒さんを助け出した後だ。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「が……はっ……」 ……ダメだ、この建物には真緒さん達はいない。 「はぁ……はぁ……」 最上階にある四階まで、奴等と遭遇して尋問が終わる前に全ての部屋を回ってしまった。 だとしたら他の建物にいるのだろう……階段を駆け下りて地上に戻っている今の行為で、時間を無駄にしているような気がする。 「ぐっ……」 「おらぁ!!」 しかもただ階段を下りるだけで無く、引き続き怒澪紅のメンバー達が俺を倒そうと邪魔をしてくる。 その時の俺は尋問をする事よりも、一刻も早く地上に戻る事だけを考えていた。 「はぁ!!」 「がぁっ!?」 「あっ、テメェ逃げんじゃねぇ!!」 最早一人一人を相手している時間も無い。 階段から飛び蹴りを喰らわせて男達が怯んでいる隙に、階段の縁から飛び降りてショートカットをしていく。 そして玄関扉から外へと出ると…… 「……!!」 赤い回転灯に白黒の車、普段は聞いていて不安になるサイレンの音が、この時だけは頼もしく聞こえる。 どこからやって来たのか、どのような展開でやって来たのか……廃ラブホテルの駐車場に、数台のパトカーがやって来た。 「チッ、こんな所に隠れてやがんのか……歌舞伎町でシノギやってる癖に、外に巣を作ってんなら探してもキリがねェべや」 そしてパトカーから降りてくる武装した警察達の中に笠鬼さんもいた。 「……笠鬼さん!!」 「おお、仁藤か……! おめェ、何でそんなボロボロなんだ?」 「これはその、怒澪紅達と戦っていて……笠鬼さん達は、どうしてここが?」 「さっき帝から通報があったんだ……怒澪紅のアジトに連れて来られたから、私のスマホから位置情報を辿って欲しいってな」 「真緒さんが……いつの間に……」 「こっちで既に、DNA解析から怒澪紅の奴等が犯人だって事も分かってんし、犯人の一人もとっ捕まえてある……後で帝には謝んなきゃな」 「……それで? 肝心の帝は今どこにいんだ?」 「真緒さんは……今は、奴等に捕まって……俺は先程から襲ってくる奴等の相手をしながら、真緒さんの居場所を聞き出そうとしていた所です」 「……そうか、ならこいつらの相手は俺達に任せとけ。 おめェは帝を探す事だけに集中しろ」 「はい……!」 「チッ……何でサツがいんだよ!?」 「よし……行くぞおめェらァ!!」 「おおおおお!!」 「残りの奴等は仁藤に着いて行って、援護をしてやれ!!」 「了解です!」 「ありがとうございます……!」 そうして駐車場にて、怒澪紅対警察による戦争が始まっている内に……俺は刑事達にも着いてきて貰って、別の建物から真緒さんの捜索を続ける。 そして二棟目……玄関から入って中に入ろうとすると…… 「……あら大和、ここにいたのね」 「……!? 斬江さん!?」 「よいしょっ……と」 「ぐっ……」 ……中から数人の皇組員達を携えた斬江が、ボロボロになった怒澪紅の男を肩から降ろしながら出てきた。 「漸く起きたのね〜大和、真緒ちゃんを探してるようなら、ここの建物にはいないから入らなくても平気よ」 「斬江さん達……いつの間にここへ……」 「やあ大和。君達が怒澪紅達に連れ去られるタイミングで、僕が組長に連絡を入れておいたのさ」 「武蔵さん……」 「だから貴方が起きる前から、既に私達は敷地内にいたって訳……それよりも貴方は、早く別の建物から真緒ちゃんを見つけなさい」 「私達はあそこにいる刑事さん達の援護に行ってあげようかしら……武蔵はまた、大和の側にいてあげなさい」 「了解です!」 「さぁ行くわよお前達!! 今までやられてナメられてきた分、ヤクザは本当は恐ろしいって事、奴等に思い知らせてやりなさい!!」 「おおっす!!」 「斬江さん、アニキ達もありがとうございます……皆さん、行きましょう!」 「お、おう!」 そうして武蔵さんと、急な皇組の登場に戸惑っている刑事達を率いて……最後となる三棟目へと向かう。 「!?……なんでサツもいんだよ!!」 「ここは俺達に任せて、君は先に行くんだ!!」 「ありがとうございます!」 当然のように俺を襲ってくる怒澪紅達……しかし刑事達が奴等の相手をする事で、俺を先に行かせてくれた。 「隅から隅まで探して行こう! 真緒ちゃんは絶対に、この建物の中にしかいない筈だ!」 「はい!」 そうして武蔵さんと共に廊下を隈無く走り……感覚を研ぎ澄ませて、部屋の方を見ながら上へと目指して行く。 「おらぁ!!」 そしてうんざりする程に、殺したくなる程に、再び俺の事を襲ってくる怒澪紅達。 「おっと僕が相手だよ!」 「がはぁっ!!」 しかし奴等の前には武蔵さんが立ちはだかり、彼は飛び蹴りをしながら奴等に突撃して行った。 「武蔵さん!」 「ここは僕に任せて! 次でもう四階だから、ここからはまた大和一人で真緒ちゃんを探すんだ!」 「ありがとうございます!」 「行かせるかよ!」 「だから君達の相手は……僕だって!」 「ぐわぁ!!」 そうして数人を相手にしても、全く怯まずに相手をしている武蔵さんを尻目にして……俺は階段を登って四階へとやって来た。 廊下に怒澪紅の奴等はいない……だが真緒さん達の声も聞こえないし、人の気配も全く感じない。 本当にこの建物にいるのか?……そう疑問に感じながら、俺は部屋一つ一つを確かめて、廊下の奥へと進んで行く。 「……!?」 ……いない。 一番奥の部屋に行っても、真緒さん達は影も形も無かった。 どこか部屋を見落としたか……? また一棟目から探し直しか……? 「……!」 その絶望感に蝕まれていると……一棟目には無かった、屋上へと続く扉があるのに気がついた。 これが最後の賭けだ……扉の鍵は空いており、外の冷たい風に頬を打たれながら、屋上へと恐る恐る階段を踏み上っていく……。 そして…… 「━━━━━━」 「ああ出るっ……おっ……」 「おら六回目イクってよ、孕めよ帝」 「ふっ、うっ……んんっ……んっ」 ……男達に囲まれている中から、真緒さんの呻き声が聞こえる。 そしてその声と身体に覆いかぶさっていた男が、その場から立ち上がると…… 「ふーっ……ふーっ……う……ぐっ……」 そこには半脱ぎの状態で乳房を露出させ、更には開脚で晒け出した陰部から……白濁色の精液を溢れ出させていた真緒さんが倒れていた。 「や……まと……っ」 「真緒さん……!!」 真緒さんはこちらに気がつくと助けを求めるように、身体を痙攣させながらこちらに手を伸ばしてきた。 「はーっ……はーっ……うう……うっ……」 無理矢理快楽へと堕とされて、悲しくて悔しくて恥ずかしくて……真緒さんはただ落胆する事しか出来なかったのか、溢れ出てくる涙を隠す為に、彼女は両目に腕を当てた。 ……そして真緒さんのその行動により、屋上へと上がってきた俺の存在に奴等も気がついた。 「……」 男達の側には……輪姦には参加せず、彼等の淫行を蔑むように見ていた文月もいた。 「来たか仁藤……だが、一足遅かったようだなぁ」 「帝真緒のまんこは気持ちよかったぜ……もう何回中に出したか分かんねぇぐらいにな」 「貴様等……!!」
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