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「……おっ、おかえり〜お兄ちゃん」
……結局夜の間に戻れず、斬江の部屋に真緒さんと共に泊まった事で、朝に帰ってくる事になってしまった大久保のアパート。
アパートの中では既に渚が起きており、布団で寝転んで俺が部屋に入ってきたと同時に、仰向けのまま俺の事を視認した。
「遅かったね〜、どっかで泊まってきたのー?」
「はい……夜の間、誰か訪ねてきましたか?」
「ううん、ずっと静かな平和な夜を過ごせたよ」
「昨日の夜ご飯と朝ご飯は?」
「冷蔵庫にあったもの食べたよ〜、しかも皿洗いまで自分でやったんだから感謝してよね」
本来、渚はこの部屋に居候させて貰っている分際だ。
なので自分に作って貰った料理の礼として、皿洗いをする事ぐらいなら義務だとは思うが……生意気な事が言えるぐらいに、昨晩は本当に何も無く過ごせたようだった。
「ふぅ……とにかく無事そうですね」
「ふむ……ここで二人で住んでいるのか」
「えっ、まおち!?」
「やぁおはよう渚、パジャマ姿ですまない……昨日はこの大和と一緒に夜を過ごしていたのだ」
「あっ、泊まりってそういう……」
ふっと笑って事実ではあるのだが、冗談のように昨晩にあった俺達の事について伝える真緒さん。
それに対して渚は思春期特有の、情事に対しての察しの良さを発揮させながら……俺と真緒さんを見てニヤニヤと良からぬ表情を浮かべていた。
「二人はこの後、またどこかに出かけちゃう感じ?」
「そうです。 一旦ここに戻ってきたのは貴女の様子を見に来たのと、冷蔵庫の中には……よし、まだ作り置きが残っていますね」
冷蔵庫を開けて、その中身を確認している間……真緒さんはしゃがんだ状態で、起き上がった渚と話をしていた。
「渚、暫くはこの大和と一緒に仕事をする事になってな……今は兄貴に頼りたい時期だとは思うが、少しだけ大和の事を借りるぞ」
「いいけど……何をするの?」
「昨日起きた歌舞伎町での、殺人事件の犯人を捕まえるのだ……あの街に再び平穏を訪れさせる為にな」
「そっか、まおちは警察だもんね……そういう事なら大丈夫だよ! 平和の事を考えたら、暇な気持ちなんていくらでもガマン出来るし!」
「ありがとう……だが暇か。 渚は大和が働いている間は、いつもずっと家にいるのか?」
「そうです。渚はまだ中学生なのでアルバイトすらも出来ませんし……お金も無いので、駅前の方に行っても出来る事が無いんですよ」
「そうか……せめて働く事が出来ればな。独りでここに閉じこもっていては寂しくて仕方が無いだろう」
「寂しい事に関しては大丈夫だよ。スマホで一応は時間潰し出来るし……それにこの子もいるしね」
そして渚は、俺が皇の事務所から持ってきたテディベアを抱き締める。
「そうか……」
そんな渚を見て、真緒さんはまたふっと笑いながら彼女の頭を撫でて、その場から立ち上がった。
「では逆に、今日は私の方がこのアパートに泊めさせて貰う事にしよう」
「……ええっ!?」
「本当!?」
「ああ、正直に言うと一人暮らしは寂しくてな……独りぼっち同士、今宵は身を寄せ合って寂しさを晴らそうでは無いか」
「やった〜!」
「独りぼっちって……渚には俺がついているので、独りぼっちではありませんよ」
「しかしお前もずっとここにいられる訳では無いのだから、どうしても渚が独りでいる時間の方が多くなってしまうだろう?……それとも、私と一緒に泊まるのが嫌なのか?」
「そういう訳では……」
真緒さんと渚……二人共似たような不機嫌そうな表情で、俺の事を睨みつけている。
寝る時に部屋が少し狭く感じる……それ以外の不満は何も無いが……。
「……良いですよ。 今は散らばっているよりも、ひとつ屋根の下に皆で夜を過ごした方が安全でしょうし」
「ふっ、決まりだな」
「やった〜! 楽しみが増えるだけでも、今日は退屈せずに過ごせそうだよ!」
「うむ、なるべく早く帰ってくるようにするからな」
「家で待っていなくても、外で時間を潰すのは構いませんが……人通りの多い場所を歩いて、歌舞伎町には絶対に近づかないでください」
「分かってるよ〜」
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……それからまた歌舞伎町へと戻ってきた俺達。
日中の歌舞伎町はお祭りのような雰囲気では無く、社会人達はショートカットとして、歌舞伎町の中を歩いて利用している。
真緒さんはタバコを吸って、俺達は一番街の終点にある喫煙所にてその様子を眺めていた。
「それで……これからどうしましょう?」
「いきなり犯人探しから行って、この大都会にいる者達の中からたった一人を見つけ出すというのも無理な話だ……まずは情報集めから行うぞ」
「情報集め……ですか」
「一人と言っても姐さんの推測が正しければ、相手は何人もいるのかもしれないが……そういう者達は基本、表には出ずに目立たないような場所で活動する事が多い」
「こうして街の者達を見ていても……お前のように代紋をつけていなければ、誰が怒澪紅の人間なのか見分けもつかんだろう」
「そうですね……」
「だからまずは聞き込みだ。怒澪紅の事を調べる以前に……犯人はどのような特徴だったか、被害者側から話を聞いていこうではないか」
「……ああ、うちの組員達からですね」
皇の組員であるならば、俺と同じようにスーツに代紋をつけているので、街を歩いていればすぐに見つける事が出来る。
それに以前から襲われているのであれば、皇組の組員達も斬江からの指摘通り、集団で動いて警戒をしている筈……
そして俺の思惑通り、ガラの悪そうな者達や社会人達に紛れて……皇の代紋をつけた男達が、五人ぐらいに纏まって街を歩いていた。
「……すみません」
「あ? 何だテメェ」
「組長の命令により、昨日の帝組殺しの犯人を探している者です……犯人はもしかしたら違うかもしれませんが、皇の組員が毎回襲われている時の事……何かご存知無いですか?」
「そうか……お前が……」
そうして組員達にも、斬江から俺の役割について話が通っていたのか、反発する事無く、その時の事を教えてくれた。
「俺達を襲ってきてる奴等は……多分その半グレの奴等で間違いねぇ」
「奴等は俺達が独りになった所を狙って……毎回複数人で袋叩きにしてきやがるって訳だ」
「……集団リンチですね」
「マジでナメられたもんだぜ……向こうは俺達がどんなにやられても、絶対にやり返してこねえって思ってんだろな……」
「だが今度からそうはさせねぇ……また集団で襲ってきたら、こっちからも集団で挑んで返り討ちにしてやる……正当防衛ってヤツだ」
「……なるほど」
「……てかテメェ、帝組んとこのガキだよな?」
「……む?」
それから兄貴達から話を聞いていると……兄貴達は俺から真緒さんの方へと視線を移した。
「テメェ……帝組じゃなくて警察になったとは聞いたが……この事、帝組にチクッたりすんじゃねぇだろうなぁ」
「別に話さん……それに女の組員が殺されたともなれば、既に家では警戒に入っているだろうしな」
「……私からこういう事があったと、注意喚起をする必要もあるまい」
「ふん……とにかく犯人探しはお前に任せんぞ……極道と警察が手を組むって話も、おかしいとは思うがな」
「はい……お話ありがとうございました」
そうして組員達は流し目にしながら、俺達の横を通り過ぎて行った。
相手が共通の敵であるならば、皇と帝が手を組めば良いとは思うのだが……そこはやはり長年に敵対をしてきたからという、皇組のプライドが譲れないのであろうか。
「真緒さん大丈夫ですか? 大分ガンをつけられていましたが……」
「ああ、組員で無くても帝の血が流れている以上、そういう目で見られるのは仕方が無いさ……とりあえず犯人探しは、怒澪紅の奴等だという事で調査を進めるぞ」
「……分かりました」
「そうしたら次は……怒澪紅の奴等が、この街の何処にいるかだ」
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「ふむ……こうして見ると本当に区別がつかんな」
それから俺達は一番街の道路端にて、再度その場を通り過ぎて行く通行人達を観察していた。
「見た目だけで判断してはいけません……案外普通そうな人でも、本当は怒澪紅のメンバーだったという可能性もありますし」
「うむ……第一印象だけで、その者の善悪を見極めるのは至難の業だという事は分かっているのだが……」
「全くいる気配が感じられない……群れたりしている奴等もいなければ、怪しそうな奴もいないし……」
「奴等……普段は人目のつかないような場所で、ネズミのように活動をしているのでは無いか?」
「半グレという組織自体……ヤクザのように上下関係が無ければ、あまり群れて動いたりはしない人達だと聞きます」
「日中は目立たないように、それぞれがバラバラで活動して……夜になったら集団で活動をするようになる……といった感じでしょうか」
「ふむ……では今もこの中に紛れて、一人か二人ぐらいは歩いているかもしれないという事か」
電柱に寄りかかりながら俺の話を聞いた後、再び真緒さんは真剣な面持ちで通りの方を注目する。
その様はまるで、獲物を狙う鷹のようだ……今までの俺は日雇いの仕事しかしてこなかったので、警察らしい仕事をしている真緒さんを見るのは大変貴重だ。
今まで真緒さんと会う事といえば、警察の仕事が終わった後の黒百合であったからである。
「……真緒さんって普段からも、事件や事故があればこうして調査をしてきたのですか?」
「まぁな……歌舞伎町は暴対法によって、今は皇組と帝組を押さえつけられているが……それでも事件が尽きる事は無い」
「窃盗、暴行、違法薬物取引……そして殺人」
「人々に欲望という呪いがある限り……それらは歌舞伎町関係無く、永遠に無くなる事の無い社会問題さ」
「……そうですね」
「そしてそういった事件が起きるのを、未然に防ぐのが私の仕事だ」
「起きてから動くのでは無く、未然に起きるのを防がなければ意味が無い」
「今は結果的に、前者の方になってしまっているが……これ以上皇帝関係無く、犠牲者は出させないぞ」
「真緒さん……俺もお手伝いしますよ」
「ありがとう……大和」
真緒さんは本当に正義感が強い。
証拠が無ければ何も動けない警察の、本当の役割を彼女は果たそうとしている。
「しかし本当にどこに隠れているのだ……こうなったら奴等が根城としていそうな適当な建物にでも突っ込んでみるか?」
「真緒さん……手がかりも無いのに、いきなり突入するのは危ないですよ」
「ふむ、そうか?」
「はい……真緒さんのお気持ちはよく分かりますが、まず第一に自分が犠牲者にならないように、慎重に調査を進めていきましょう」
「うむ……すまない、少し取り乱した」
しかし正義感が強いのと無謀なのは違う……真緒さんは時々、論理よりも実行を優先させようとする事が多々ある。
そうした道を辿っていくと決まって破滅が訪れる……いきなり危ない橋を渡ろうとする前に、彼女の手を引く役目は俺が務めなければ。
彼女の正義感が空回りしないように、上手く真緒さんのサポートをしていきたいと思った瞬間であった。
「……むっ、すまない電話だ」
「あぁ、どうぞ」
……その時、真緒さんのスマホに着信が入ってきた。
一番街の連なっているビルを見渡しながら、彼女はスマホを耳に当てる。
『おい帝、何一人でフラついてやがる! てめェ今どこいんだ?』
「……ああ、笠鬼さん。今歌舞伎町で、例の事件の犯人を探している所です」
『んだとォ? いつも独りで行動すんなっつってんだろうが、これから計画を立ててくんだから今すぐこっち戻ってこい』
「……はい、すみません」
それから真緒さんは電話相手から突撃を中止されたようで、どこか安心しているような表情を浮かべながらスマホをポケットに閉まった。
「真緒さん……どなたからですか?」
「上司からだ……すまん大和、これから署の方に戻らなければならなくなった」
「そうですか……では真緒さんが警察署にいる間、俺は……」
「……大和も一緒に来るか?」
「え……?」
それから俺を置いていくのでは無く……新宿警察署のある方へと向かう途中、真緒さんは俺の方に振り返って立ち止まった。
「構いませんが……極道である俺が、警察署の中に入っても大丈夫なのでしょうか」
実の所、既に俺は新宿警察署の内部に立ち入った事がある。
しかしその時は身を隠しながら、人目につかないような地下へと行ったので、誰にも指摘されずに済んだのだが……今回の真緒さんは正々堂々と、俺を署の内部へと連れて行くつもりらしい。
「大丈夫だ」
「本当ですかね……」
「……確かにお前は極道だが、帝組殺しの犯人を捕まえようとしている者として、私達警察と目的は同じだ」
「本来は相容れぬ関係でも、協力者として振る舞えば、向こうもお前の事を受け入れてくれるさ」
「そうでしょうか……」
「とりあえず考える事だけをしていては何も始まらない、とっとと署の方に行くぞ着いてこい」
「あっ、待ってください真緒さん」
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……それから俺達は歌舞伎町から出て、山手線や湘南新宿ラインなどが密集している線路を横切り、県道四号線を通って新宿警察署へとやって来た。
東宝ビルとかと同じく、こちらを威圧してくるかのように背が高い建物……
「あの、真緒さん……やっぱり俺、ここで待っています」
「大丈夫だ大和、そのように怖気付いていては逆に目立っているぞ、もっと堂々としていろ」
「あっ……」
真緒さんに手を引かれてはいるが、建物に近づけば近づく程、一歩一歩が重く感じていく……
……そうしていとも簡単に、あっという間に警察署の中に入ってしまった。
「っ……」
周りから俺の事がどう映っているのか……確認したい所ではあるが、真緒さんの言う通りに辺りを見渡さずに彼女の事だけを注目する。
「……それで、どこに行くんですか?」
「こっちだ」
そうして真緒さんの後に着いて行き……俺達はエレベーターで上層へと上がっていく……
東宝ビルにある物とは違う、鉄の匂いが鼻に刺して、扉が開くとどのような光景が広がっているのか緊張感が増していく……
「……!」
そしてエレベーターが開かれるとだだっ広いオフィスのような空間が広がっている中……服装だけで階級や仕事内容が分かりそうな刑事達が、デスクワークを行ったり、事務所のあちらこちらを行ったり来たりしていて忙しそうに仕事をしていた。
……たった今、極道である俺が一般人でも立ち入る事が無さそうなこの場所に、侵入しているのにも気が付かない程にだ。
「……あっ! てめェ漸く帰って来やがったな帝」
そんな彼等の仕事ぶりを眺めていると、俺達の元に一人の刑事がやってきた……。
先程の真緒さんの電話相手だろうか……その人は、昨日の一番街で斬江を連行していった強面の中年刑事であった。
「すみません笠鬼さん……只今戻りました」
「戻りましたじゃねェよ。朝起きたら寄り道せずにここに来いっつってんだよ」
「身内が殺されて、いてもたってもいらんねェ気持ちも分かるが……警察ってのはチームワークで事件を解決して行く仕事なんだわ」
「……警部補に出世した程度で、カッコつけて独りで行動すんじゃねェ」
「はい……すみませんでした」
俺よりも一つ歳上の真緒さん……敬語を使う相手が斬江の時しか見た事が無かった上に、あのプライドの高い真緒さんが目上の人にお辞儀をしながら謝っている。
俺達の面子の中では最年長でもあり、姉のような人ではあるが……そんな彼女も、この大都会新宿を生きている社会人の一人だと実感した。
「……で、誰だおめェ」
それから真緒さんの事を説教していた刑事は、続いて冷淡で細い瞳を俺の方に向けた。
「……いや待て、おめェ……昨日皇と一緒にいたガキだな?」
「はい……仁藤と申します」
「皇の代紋……おい帝、どういう了見で警察の領地にヤクザ立ち入らせてんだ」
「笠鬼さん……今回のヤクザ殺しの犯人、相手はあの怒澪紅の奴等だと思うんです」
「怒澪紅……今歌舞伎町でシノギを上げてるっつう半グレの奴等か?」
「はい……今回この者は、協力者としてここに連れてきました」
「我々よりも普段から歌舞伎町で活動をしている者として……怒澪紅の立場になって行動を予測出来る、良い解決材料になると思うのです」
極道と手を組むのではなく、主に極道を利用しようとしている体で、刑事の事を説得する真緒さん。
利用されたっていい……事件を解決する事は勿論の事、それで真緒さんと一緒にいられるなら……
「だがおめェ、去年もそう言って怒澪紅のアジトらしき場所に潜入したが……そいつらは怒澪紅でも何でもねェ、ただの外国から来たチンピラだったじゃねェか」
「まぁそれはそれで大手柄なんだろうが……ハナっから犯人の目星が間違ってたら意味がねェ。 それで誤認逮捕とかになったらどうすんだおめェ」
「今度は絶対に間違えません……今回は独りで勝手に行動する事無く、課の皆さんと協力して今回の事件を解決して行きます」
「それが当たり前だバーカ、帝組組長の娘だからって容赦しねェぞ……で、おめェは何が目的だ?」
「!……」
再び刑事からの視線に捕えられる。
真緒さんといたいからじゃない……斬江から命じられた事として、あくまで仕事をする為に真緒さんに着いてきたのだと説明しなければ。
「俺は怒澪紅の者達に、歌舞伎町でこれ以上大きな顔をされないように、犯人を捕まえながら組織を潰してこいと組長に命令されてここに来ました……」
「まだ犯人がその者達と決まった訳ではありませんし、俺も組の中では下っ端ですが……歌舞伎町を統制している者として、街の治安を守らせてください」
「……ふん、そうか、まぁ協力すんのはてめェらの勝手だが、分け前とかは何もやんねェぞ?」
「犯人の身分もこっちのもんだ……てめェら皇組がそいつに何の恨みがあるのかも知らん。 報復する為に殺させろみてェな要望は却下だからな」
「……分かっています」
「そして絶対に俺達の邪魔をしねェっつうんなら、おめェの好きにしな……帝、行くぞ」
「はい」
それから刑事は俺を追い出す事無く、真緒さんを連れて部屋の奥へと向かおうとしていた。
真緒さんは彼に着いて行きながら、良かったなと言っているような表情でこちらに微笑んでいた。
「!……ありがとうございます」
そして俺も彼等に着いて行き、極道の身でありながら、警察側の内部へと進んでいく。
この中で数多といる警察達の中で、唯一違う人種の者がいる……しかしそんな俺を止める者は誰もいなかった。
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……やがて俺達がやってきたのは、署内にあるとある一室。
入り口には捜査一課と書かれてあった。
ここで日頃から事件や事故の調査を行っているのか……部屋の中には書類が保管されている本棚、パソコンなどあって様々な事が調べられそうだ。
「……はぁ!? この人、皇組の組員なんですか!?」
部屋の中には既に数人の刑事がおり、先程の刑事が俺の事を極道だと紹介して……驚きながらも敵意ある視線でこちらを注目していた。
「ああ、帝曰く犯人に関する情報提供をしてくれるっつうんで連れてきたらしい……俺はあんま期待してねェがな」
「帝さんが……?」
「こいつの事は、私が面倒を見ます……皆さんにはご迷惑をお掛けしませんので、よろしくお願いします」
「……お願いします」
動揺している刑事達に向かって頭を下げる真緒さん……それを見て、俺も慌てて刑事達にお辞儀をする。
「てな訳だ。おめェらはこいつの事はいねェモンとして扱ってくれていい、仕事に戻ってくれ」
「はい!」
そうして刑事達は首を傾げながらもそれぞれの机へと戻り、俺の自己紹介をする時間は終わった。
「さて……まぁ俺の名前ぐらいは教えてやっていいか……俺は笠鬼、刑事部捜査一課、分かっんだろうが刑事だ」
「はい……仁藤と申します、よろしくお願い致します」
「この課で事件を解決していくからには、全部俺の指示に従ってもらう……帝、勿論おめェもだ」
「……はい」
「……そういえば真緒さんって、刑事部捜査四課でしたよね……一課と四課で、何か違いがあるのですか?」
「四課ってのは、おめェみてェなヤクザを相手にする担当だ……本来殺しは担当しねェんだが、今回は帝組が関係してるからっつう事で特別に参加させてやってる」
「そうなんですか真緒さん……」
「ああ……かなり無理を言って入れさせて貰った手前、絶対に犯人は捕まえなければならないのだ……」
「真緒さん……」
本人は復讐するつもりは無いと言っていたが……真緒さんの今の瞳には、犯人に対しての怨念が込められているような気がした。
笠鬼さんからは独りで勝手に行動するなと、何度もお叱りを受けているようだが……犯人を見つけ次第にすぐに殺してしまいそうな程の圧力であった。
「……そしたら、おめェらはこれから怒澪紅について調べてみんだな?」
「はい」
「それじゃあ聞き込みやら何やらして、奴等が今どこにいんのか調べてみろ」
「仮にそいつらが犯人だとして、アジトを見つけたとしても……勝手におめェらだけで突っ込んだりすんなよ? 分かったか帝?」
「……分かっています」
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