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#1 「7歳差」
「俺のこと……覚えてる? 叔父さん」
男の子が話しかける。
(オジさん? まだ、27ですけどっ)
振り返ると、黒いスーツを纏った10代後半くらいの男の子がいた。
(うちの親戚にいたっけ? こんなイケメン。梨音さんの親戚は……もう交流ないハズだし……)
とりあえず、無言の笑顔で誤魔化す。
「忘れちゃった? 叔父さん」
「はい?」
「琉生だよ。甥っ子の名前まで忘れてないよね」
「……琉生! あの大人しくて、可愛くて、小ちゃかった琉生?」
「まんまでしょ?」
「えーー、可愛くなーい。デカいし、俺より。……10年振りだから……20歳か。そりゃ、もう可愛くないよなぁ。なんか、男前になっちゃって」
「褒めてんの? 軽くディスってる?」
「褒めてるよー。梨音さんも自慢の息子だったろうに」
和やかに話しているが、琉生の母親・梨音の葬儀が終わったところだ。
「お前こそ、叔父さん、叔父さん言うけど名前覚えてないだろ?」
「忘れるわけないじゃん」
(俺の初恋の人なんだから……)
「那月……だろ」
勇気を出して呼び捨てにしてみた。
「那月〝さん″な。ナマイキ!」
叔父・那月は出会った頃と変わらない、屈託のない笑顔で琉生の髪をクシャクシャとした。
(……ズルイな……こんな笑顔で……普通に)
他愛のない仕草の一つ、一つが琉生の鼓動を速める。この音、聞こえてるのでは? と心配してしまうほど。
痛いほど琉生の胸を締め付ける。
「……つか、そんなに離れてないじゃん。俺もう、ハタチだし」
「先のこと、考えてるのか? 夜な夜な遊んで、バイトばっかりしてんじゃないのか? ハタチくんは」
「遊んでねーよ。……先のことは……」
(考えてるよ。あんたの側にいること。それさえ叶えば……他には)
「まったく、世話が焼けるね。ハタチくん、俺みたいに一人前の保育士になってからナマイキ言いなさい」
(っだよっ。遠くにいくなよっ……クソっ)
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