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5
「――――ただいま」
「その前にまずノックをしてくれるかい」
この間、自分もしたくせに、自室でパソコンに向かった彼は背中を見せたまま不機嫌そうに言った。
構わず歩み寄って、持って来たものを机の端に置くと、ガサリと擦れる袋の音が余計に癇に障ったようにきつい眼で見上げる。
「仕事中に来られるのは好きじゃないって言ってるだろう。後にしてくれ」
それはお互い様なんだけど、と言いたいのは飲み込んだ。
「知ってるけど、答えが分かったから」
「答え?」
訝しげに彼は私の顔を見て、それから袋を開ける。
中身は、駅前の老舗和菓子店で買って来た上生菓子。
餡で作られた小さな花がピンクからブルーの淡いグラデーションを丸く描いた縁に緑の葉を添えた、季節の練り切り。
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