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「ねぇ、たまにはどこか出かけないかい」  お昼どき、彼が窓の外を見て呟いたのは3月のこと。  満開の桜の花びらが、家の庭にもひらひらと舞ってきていた頃だった。 「どこに」 「……どこでもいいけど」  お花見に行きたいんだろうな、とすぐに分かった。    けど。  どうせまた桜の種類の蘊蓄垂れたり、それならってコンビニでアイス買って食べながら歩いたりすると『行儀が悪い』って苦虫噛み潰したようなで説教始めたり――――。 「……ちょっと、今は年度末で仕事が立て込んでるから、家に居たいかな」 「そう」  その日の献立は忘れたけど、食べ終わっていつものようにお茶を淹れる彼の背中が少し寂しそうに見えたので 「……落ち着いたら、どこか行ってもいいよ」 思わず口にしてしまうと、驚いた顔で彼は振り返った。 「本当に?」  あまり驚かれると、普段どれだけ失望させてるんだろうと、ちょっと反省する。 「そんなタチの悪い冗談言わないよ。貴方が行きたいところがあるなら付き合う」  私の希望を言ったってどうせ文句言われるだけだし、と内心思いながら言うと、彼は子供みたいに眼を輝かせる。 「それなら、今じゃなくていいから行きたいところがあるんだ」
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