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それで言い出したのが、大学の時、彼と初めて行った場所だった。
特に観光地ではないけれど、その地元では紫陽花が綺麗で有名なお寺。
確か、民俗学のレポートを書くのに実際足を運んでみたいんだけど、その時期は人が多くて一人じゃ行きにくいから、とか頼まれて。
今思えば事実上の初デートだけど、こっちはまだ全くそういう意識はなかった頃のことだ。
「紫陽花が盛りで見事だったろう。あれをまた、きみと一緒に見たいんだ」
「……一人で行かなくていいの?」
「どうして?」
「……ガサツなあたしと行くより、そういう……綺麗なものとか雰囲気を共有できるような人と行った方がいいんじゃないのかと思って」
件の編集者さんのことがまだ気になってた時期だった。
彼は少し考えて言った。
「僕は、共有って言葉は好きじゃない。僕の感覚は僕だけのものだ。それを誰かに分かってもらおうとか、分かったふりをして欲しいなんて思ったことはない。そういうことじゃなく、ただ、きみと一緒に見たいと思っただけだ」
真っ直ぐ私を見る彼の眼には何の曇りもなかった。
「……じゃあ、その頃になったら」
「ああ。楽しみにしてるよ」
珍しく笑みを浮かべて、彼は食後のお茶を淹れた。
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