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「――――すっかり忘れてて、ごめん。でも、まだ咲いてるでしょう?」  彼は黙ってそれを見つめていたと思うと、振り返って袋ごと私に押しつけた。 「悪いけど、今、集中してたところだから」 「……ごめん」  出て行こうとすると 「だから、お茶を淹れておいてくれないか。もう少ししたら下に行くから」 背中から声がした。 「あたしが淹れるんじゃ、美味しくないんじゃないの」 「たまには人が淹れてくれたお茶が飲みたい。きみが言う、気が滅入るような雨音を聞きながら一日大人しく留守番してた日なんかは特にね」  ……聞いてないようで、いちいち覚えてるんだから……。 「それから、史香。あのプリンはきみのだよ。賞味期限が切れる」 「だったらひとこと言ってくれればいいじゃない。食べていいのか迷うから」 「僕の食べ物の好みくらい分かってるだろう。僕はああいう安っぽい食感のは食べない」 「……そうですか」  続けたら泥仕合になりそうなので退くことにして、ドアを閉めようとすると 「史香」 「なに?」 背を向けたまま、彼は言った。 「……いや、いい。後で」  ドアを閉めるとまた彼の叩くキーボードの音が聞こえて、けど、いつもより少し軽やかに聞こえた。
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