110人が本棚に入れています
本棚に追加
見上げると、彼は眼を伏せ苦笑いする。
「分かってるんだよ。いろいろ、きみを傷つけたり悲しませたりしているのは。でも、僕はこういう性分だから、偽りたくはないんだ。それは逆にきみへの不誠実に思えるから」
「……ん」
「だから、10年後も多分僕はこのままだけれど、それでも一緒に……隣に居てくれるかい。ついでに言えば、きみは何か気にしていたみたいだけれど、僕は他の誰にもそうして欲しいとは思わないよ」
……分かって……。
まあ、当たり前だよね。
人の心に疎かったら、小説なんて書けないだろうし。
「あたしは……」
流産したのは、10年前。結婚して間もない頃。
出血も痛みもかなりひどくて、一週間くらい寝込んで。
その時ばかりは、この人もさすがに余計なことは何も言わず、毎日お粥を作って、心配そうに顔を覗き込んで。
結局、それからしばらく体調も戻らず、仕事の方でも急に後輩が辞めたりして忙しくなったのもあり、彼も。
もともと繊細な人だから、私以上に思うところがあったのか何も言わず、家族が増えることはなく今に至った。
最初のコメントを投稿しよう!