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「梅雨は分かってるけど、毎日これじゃ気が滅入るよね」
「季節の移り変わりってものだよ。梅雨が明けたら毎日嫌になるほど日は浴びられる」
「それはそうだけど」
天気予報は一週間傘マーク。
いい加減飽きてきた雨の音に溜息をついて、私は食べかけのトーストを手に言った。
「降らなきゃ降らないで水不足とか問題あるのも分かるけど、あたしは庭の紫陽花やカエルじゃないんだから」
その瞬間、彼がじろっと私を見た。
造作が整ってる人だけに、真顔になると怖い。
「……なに?」
「……いや、なんでも。……夕飯、何か食べたいものあるかい」
「別に。貴方が作りたいもので。任せてる身だから」
「任されてる方は『なんでもいい』じゃ困るんだよ」
と、彼は溜息混じりに自ら選んだ気に入りのティーカップに唇をつける。
だって、希望出すと『今日はそういう気分じゃない』とか『きみは野菜の旬も知らないのか』とか返って来るし。
「作りやすいものの方がいいのかと思って。やってくれるのは助かるけど、締め切りとか大丈夫なの?」
「おかげさまで。食事作る時間も無いほど多忙じゃないよ」
彼は、売れてるのか売れてないのか微妙なラインの小説家。
事務職の私はこの春から社を挙げてのリモート勤務で。
元々ちょっと難しい人なのは承知だけれど、どちらも在宅ワークとなってしまった今、そうなる前に比べて少し、窮屈な思いをしている。
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