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案内役の執事に連れられて城の中に入ると、その美しさに驚愕した。
漆喰の壁には豪華なタペストリーが飾られ、アーチ型の窓には鮮やかな色ガラスで花や蝶などの絵が繊細に描かれていた。
すごく素敵……戦争のためだけに建てられた要塞のような我が国の城とは大違いだ。
キョロキョロしながら長い廊下を歩いていくと、眩しく開けた広間に着いた。
まずは王族との顔合わせだ。
「ミリアム王女じゃな。遠路遥々よう来られた。おもてをあげい。」
中央の玉座には豊かな黒髭を蓄えた褐色の肌の人物が座っていた。
ルアンダー王国の君主、スティルス陛下だ。
熊のように大きい……
こんな大男を少量の毒だけで本当に殺せるのだろうか……?
南の地域に住む人々は温暖な気候のせいか体がすくすくと成長する。
帝国を築き上げた父よりも格段に戦力の劣るこの国が、対等に戦い抜けたのもこの身体能力の高さゆえだろう。
我が国の男どもが全員ひ弱に見える……
あの百戦錬磨だった父が正攻法では適わぬと追い詰められるわけだ。
スティルス陛下は無益な争いを好まず、常に自国民の幸せを願う德の高い人物だ。
今回の突然の和睦や縁談話も、戦争に疲れ果てた兵士や国民のことを第一に考えて承諾したのだろう。
そしてその横に座る王妃、シール殿下も、誰からも愛される聖母のようなお人柄なのだという……
国民や傘下の国から税を絞りとって貧しい暮らしを強要し、自分達は贅沢三昧の暮らしを謳歌している我が国の特権階級達とはえらい違いだ。
私を一目見たスティルス陛下は、ほぅと感嘆のため息を漏らした。
私の母は様々な異国の血が混じりあったせいか誰もが認める絶世の美女で、私もその美貌を受け継いでいた。
そして髪色も、ホワイトブロンドの母と赤毛の父の遺伝子が合わさり、ストロベリーブロンドというとても珍しい色をしていた。
「噂にたがわぬ綺麗な娘じゃ。」
「本当に…宝石のようだわ。」
そう言うと両陛下は柔らかな微笑みを私に向けてくれた。
意外だった。もっと冷たくされるものだと思っていた。
こんな風に優しくされたら決心が揺らいでしまう……
「気に食わない。」
玉座の脇に座っていた少年が、殺伐とした空気をまといながら吐き捨てるように言った。
その少年こそ私が結婚する相手、この国の若き王子、レオナルティスだった。
艶やかな黒髪に父親譲りの健康的な小麦色の肌。
背丈はまだ私と同じくらいだが、細いながらも鍛えあげた無駄のない筋肉がバランスよくついていた。
まだ15歳なので幼さが残るものの、端正な甘い顔立ちに翡翠色の神秘的な瞳……このまま成長すればさぞかし女性からモテるだろう。
「こんなやり方は俺の性には合わない。仲良しこよしの真似事なんてごめんだ。」
「レオ。これはもう決まったことだ。」
「二度と我が領土に入り込まないように、真っ向勝負で叩きのめすべきだ!」
「明日から式典の準備に取り掛かれ。これは命令だ。」
有無を言わさぬスティルス陛下の態度に、レオは納得がいかないとばかりに足音を立てながら立ち去っていった。
「ごめんなさいね。レオはちょっと、気難しい子で……」
呆然とする私にシール殿下が優しく声をかけてくれた。
つい先日まで戦争をしていた相手の、しかも自分より六つも年上の女が花嫁として突如現れたのだ。
怒りたくもなるだろう……気持ちはわかる。
───────……でもどうしよう。
先ずは花嫁としての役目を全うしなければならないのに……
結婚相手が全然乗り気じゃない。
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