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波の音が二人を包む中、幻想的に沈みゆく太陽が夜の訪れを告げていた。
夕日はなぜあんなにも赤く染まるのだろう……
これから過ごす恋人との甘い夜に、照れているのかな?
「どこへだって連れて行ってやると言ったのに、まさかこんなところで一日過ごすことになるとはな……」
釣り糸を垂らしながらレオはブツブツと文句を言っている。
レオは久しぶりの休みが取れ、お祭りの時にした約束を叶えてやると張り切って聞いてきたのだが、私は近くの海が良いとリクエストしたのだ。
だって、魚が釣れるところが見たかったんだもん。
とはいっても、結局なにも釣れないまま一日が終わろうとしていた。
「今日もお魚はお休みですか?」
「ミリアム……それは嫌味で言っているのか?」
貴重な休みだってのにと、またブツブツと聞こえてきた。
そうは言われても行きたいところが思い浮かばなかった。だって私は、レオの隣で居られたらそれだけで幸せなのだ。
岩場からひょこっとアイツが顔を出した。
「わっ、レオっ大きいカニがいるよっ。」
「挟まれるなよ。」
「痛あっ!」
「おまえはバカなのか?」
竿がしなり、糸が切れるんじゃないかと思うくらいにピンと張った。
レオが慎重に糸をたくしあげるのをワクワクしながら待っていると、釣り針には見事な大物が食いついていた。
すごいっ……本当に釣れた!
「見たかミリアム!」
やっと魚を釣って見せれたことがよほど嬉しかったのか、レオは私に向かって高々と魚を持ち上げた。
そのはしゃぐ姿が可愛くって、キュンとしてしまった。
よく出来ましたとナデナデしてあげたい……
そろそろ夕食の時間だと知らせにアビがやってきた。
「アビ、これも刺身にして出してくれ。」
自慢げにレオから渡された魚を、アビは大袈裟なくらい驚きながら受け取った。
「こんな大物を釣り上げるだなんて……レオ様、もうすっかり怪我は完治なされたのですね!」
「ああそうだな。もう塗り薬も包帯も必要がないかもしれないな。」
母を庇って剣で切られた傷は深く、治るのにかなりの日数を要してしまった。
肩を前後に振り回す元気なレオを見たアビは、目を三日月のように細めながらぐふふ~と嫌な笑い方をした。
「では……今夜は久しぶりに燃え上がれますね!精が出るよう肝も調理してもらいましょうっ。」
調理長のとこに渡してきま~すとアビはダッシュで去っていった。
ア、アビったら……
なんてことを言い残していくんだ………
レオは怪我が治るまで医師からは安静を強いられていた。
久しぶりどころか、初夜のやり直しだってまだなのに……
夫婦なんだしそうなるのは当たり前のこと。
でもいざ今夜だとか言われると意識せずにはいられない。
チラリとレオの方を見ると、私以上に真っ赤になっていた。
私達のこのぎこちなさは、いつになったら改善されるのだろうか……
「暗くなる前に戻りましょうか、レオ。」
立ち上がろうとしたら、レオが手を重ねてきた。
触れられた力強い感触に、思わずビクッと体が反応してしまった。
「ミリアム、ビビりすぎだ。」
レオが私の顔を見ながらフハッと吹き出した。
自分だってさっきまで照れてたくせにっ……!
ああもうっ……この笑い方、好きだな。
眩しすぎて胸がカアっと熱くなってくる……
その笑顔を独り占めしたくて軽く頬に触れると、レオも私の髪に触れてきた。
「確かミリアムは激しいのがご所望だったな。」
「レオは、服を着たままがご所望なんですよね?」
二人で笑い合い、そっと……唇を重ねた。
あの時私は死ぬのだと思った。
体中から汗が吹き出し、全身が痺れ、立っていられないほどの酷い悪寒に襲われた。
薄れゆく意識の中で、死ぬことよりも、レオにたった一言……愛していると言えなかったことを後悔した。
でももう、ためらうことは何もない。
「ねえ、レオ。」
「うん?なんだミリアム……」
何度でも伝えよう。
大切なあなたに
『 愛している 』と────────………
〜FIN〜
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