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トランペットと太鼓によるファンファーレが鳴り響いた。
私達を先頭に婚礼行列が王室礼拝堂へと向かって進み始めた。
後ろにはスティルス陛下とシール殿下、そして王家一族と数家の公爵、さらには華やかに着飾った貴婦人ら総勢50人が続いた。
祭壇へと続く金色に縁取られた真っ赤な絨毯の上を、一歩一歩、ゆっくりと進んで行く……
みんなの視線が私に集中しているのがわかった。
私はずっと敵対していた野蛮な国の王女だ。中には家族を殺された者もいるだろう……
この中のどれだけの人が私を好意的に迎えてくれているのだろうか。
そんな人……一人もいないんじゃないだろうか。
「前を向け。堂々としろ。」
不安で押し潰れそうになる心を、レオが支えてくれた。
祭壇にいる大司教の前でひざまづき、婚姻の儀式がスタートした。
大司教の唱える祈りと王室聖歌隊の聖歌が響きわたる中、左手の薬指に結婚指輪がはめられた。
続けて行われる誓いの口付をレオにできるのかと少し不安だったのだけれど、作法にそってそつなくこなしてくれた。
その後も幾つかの儀式を行い、最後に結婚証書が差し出された。
震える手で署名し終えた時、ペンの先からインクの一滴がしたたり落ち羊皮紙ににじんでしまった。
「気にするな。」
動揺する私を、レオが優しくフォローしてくれた。
婚姻の儀式が終了したあとは、国王主催の祝賀晩餐会がオペラ劇場で催された。
鼓笛隊が打ち鳴らす太鼓の音に迎えられ豪華料理が運ばれてくる。
緊張と疲れからか食事がノドを通らない。せっかく美味しそうな料理なのに……
隣に座っているレオは普段の食事と変わらぬ様子で口に運んでいた。
各国の要人達がひっきりなしに挨拶に訪れる中でも、レオは終始食事をとりながら相手をしていた。
そりゃ次期国王となる人だもんね……
このくらい図太い神経じゃないと国政なんてできない。
「ミリアム、少しは食べろ。我が国の料理はどれも美味いぞ?」
口に合わないから食べていないわけじゃないのだけれど……
周りを見渡すとこの国の女性はふくよかな人が多かった。
「レオはぽっちゃりした方がお好みですか?」
「……誰もそんなことは言ってないだろ。」
レオが照れたようにそっぽを向いた。
こういうところはまだまだ子供だなあと思わず吹き出してしまったら、レオからギロリと睨まれた。
祝宴も無事終わり、近衛隊の敬礼の中を退場した。
終わった……長い一日だった────────……
……あれ、ちょっと待てよ。
まだ終わってない。
大事なことを忘れていた……
そう……これから、床入れの儀式があったのだ。
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