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呪
「太一くんの所はね、責任取る所か、逃げただけなのよ。逆も逆。最低な一家なのよ」
「は……?」
ドグン、ドグンと身体が唸る。
「鏡は割れたけど、降臨祭はもう止めることは出来ない。……じゃあ、どうするか?……そうだ、責任持って鏡を割った戦犯の家族が代わりに贄となれってね」
「え……」
「私、今でも思うんだけど、割ったのは確かに私のお父さんかもしれないけど……元凶は太一くんじゃないのかなーって!」
「……ぁ……」
太一は恐ろしくて声が出なかった。
目の前の笑みを浮かべながら辛辣な言葉をぶつける朋美の圧に、とにかく脳内が色々な思考で押し潰されて言葉が出ない。
「私はね、仕方なく贄としてここに残って十数年自分の人生を捧げてきた。その間、太一くんは県外に出て楽しく生活してきたんだよね!」
「……朋美……、ごめん……」
「ううん、今更いいの!……多分、最初に“覚えてる?”って聞いた時に答えてくれなかったのが全てだから」
太一はもう何も言えなかった。
朋美はフッと笑うと、スキップするように一人鳥居の下を潜って神社の外へ出た。
「じゃあさ、覚えてる?贄の交代方法」
「え?」
朋美の言葉に太一はキョトンとした。
「交代とか……出来るのか?」
「……ンァハハハハ!!本当に全~然覚えてないんだね!!」
太一は何か嫌な予感がした。
朋美の笑みに、どこか勝ち誇ったような笑みが紛れていたからだ。
「最後の親切で教えてあげるけど、贄を交代するには新しい贄と今みたいに一緒に鳥居を潜って“奉納”しなきゃいけないの」
「……っ!」
太一はハッとしたがもう遅い。
背中に今まで感じなかったズシリとした謎の重さを感じる。
「少しでも私と神社のこと覚えてくれてたら、私も贄のままでいてあげても良かったんだけど……」
朋美は少し寂しそうに笑いながら“じゃあ”と手を振り、闇に溶け込むようにどこかへ歩き消えていった。
「ぉ……覚え、て…………覚えて…………」
残された太一には「覚えてる」と返せなかった自分をただひたすらに呪って泣き崩れるしか無かった。
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