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悲しみと幸せ
「おめでとう!」
「幸せにね」
「2人が一番乗りだな!」
「みんな、ありがとうな!」
グレーのタキシードを着た朔太郎が、教会の階段の上から言った。
「ブーケトス、いくわよー!それっ!」
美代子は後ろ向きになり、白い花で出来たブーケを投げた。
大学を卒業し、小さなIT会社を立ち上げた朔太郎は、会社の安定を確信し、ずっと付き合っていた美代子と結婚を決めた。
「涼平も早くいい女見つけろよ」
「あぁ!みよちゃんよりもいい女見つけるかんな!」
「あー!言ったわね!あたしよりいい女見つかったら教えなさいよね!」
社会人になってから三人は、サーフィンに行くことは無かった。
いや、社会人という理由だけではなかった。
あれから3年、【あの出来事】以来、行く気にならなかったのだった。
お線香に火をつけ、チーンと鳴らし、手を合わせる。
それが毎日欠かさずしている、拓馬の朝の日課になっていた。
「拓馬、職場の方々とはうまくやっているの?」
「あぁ、色々教えてくれるし、自分の考えたお菓子を作ってみろって、作らせてくれるんだ」
西山拓馬は、パティシエの道を歩んでいた。
亡くなった妹が大好きだったスイーツ。
そして、妹がなりたかった、パティシエの道を拓馬が変わりに歩んでいたのだった。
「あの子も喜んでるわね」
「そうだな、そうだといいな」
「もうすぐ三周忌よ、あなたも、もうそろそろ自分を責めるのはよしなさいね」
拓馬は、妹の死以来、ずっと自分を責めていた。
自分がすぐ側にいたのにも関わらず死なせてしまったことに対してだった。
年の離れた妹が、可愛くて可愛くて仕方なかった拓馬。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん!私ね、ケーキ屋さんになって、お誕生日のケーキをお兄ちゃんに作ってあげるねっ」
目を閉じると、いつもそう言って笑う姿が見えてくる。
(みのり、お兄ちゃんがお前にケーキ作ってやるからな)
「いってきます」
そう言って、玄関のドアを開けた。
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