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二人の結婚式から3年が経った。
朔太郎のIT会社は、日本でも一躍有名になる会社にのしあがっていた。
高層ビルの建つオフィス街を歩く男女。
「先輩!もうトロトロ歩くのやめてください」
「お前さぁ、そんなに急いでどこへ行くー!だよ、まったく」
桜子は歩くのが早い。
大田原は歩くのが遅い。
外回りは、いつもこの会話だった。
二人が向かった先は、【明和銀行】
毎年、融資顧客に向けてのツアーをハッピー旅行会社に依頼してくれていた。
今回は、桜子と大田原の担当になったのだ。
今日はその最終打ち合わせの日だった。
「なんでいつも私と先輩なんでしょうね?」
「それは、こっちの台詞だよ!まぁ、お前をうまく扱えるのは俺しかいないってことだな」
「あの、人を物みたいに言うのやめてくれません?イラッとします」
相変わらすな二人だった。
「すみません、融資担当の林さんは?」
「林は奥の応接室で待っております、申し遅れました、私は今回のツアーで林と同行いたします、新堂と申します」
「あ、そうですか!一緒に行かれるんですね、よろしくお願いいたします!」
(先輩、ほんとに美人に弱すぎる!ニタニタすんじゃないわよ、ったく)
新堂真理子は、肌の色が透き通るように白く、誰もが認める美人だった。
奥の応接間に通された。
「あ、どうも!林さん!」
「お世話になっております、林さん、最終確認よろしくお願いいたします」
「大田原さん、神山さん、よろしくお願いいたします」
年の割に幼い顔をした中肉中背の林涼平が、会釈した。
「それでは、お申し込みのお客様の確認からお願いいたします」
1枚づつ名簿を確認していく。
「え!ちょっと待ってください!この方の名前!今週号の雑誌に載ってました!」
桜子が仕事を忘れて叫んだ。
「そうなんですよ、【mûrir (ミュリール)】の西山さんです」
「誰ですか?その方」
そういうことに疎い大田原が、聞いた。
「今注目のパティシエです、若くして自分の店を開店させた方ですよ、その際、うちで融資させていただいたんです」
「そうなんですね、私は甘いものは苦手なもんで」
若くして自分の店を構えた西山の店は、フルーツを中心としたスイーツで、見た目も可愛く、瞬く間に女性の間で流行っていった。
その店は、拓馬の店だった。
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