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シルバーの外車が【mûrir (ミュリール)】の前に停った。
降りてきたのは、美代子だった。
「やっぱり混んでるわ」
店に入ると、そこは女性だらけでごった返していた。
「いらっしゃいませ、あ、いつもありがとうございます」
奥から拓馬が出てきた。
すると、店内の女性達が一斉にスマホを取り出し、撮影を始めた。
「キャーー!西山さんだわ!」
拓馬は、華奢でそれほどカッコよくはないが、パティシエの制服を着ていると、カッコよく見える。
雑誌に取り上げられたこともあって、一躍有名人になっていたのだ。
美代子は、そんな女性達を尻目に、買い物を続ける。
甘いものに目がないのだ。
色気より食い気。
「すみません、これと、これと、あと、あれと...」
色とりどりのカラフルなスイーツを頼んだ。
「また、来週も来ますね」
「いつも沢山ありがとうございます」
「私、ここのスイーツ大好きなの、夫は甘いものダメだから、1人で食べちゃうんだけどね、毎日食べてても飽きないの」
「そうですか、それは嬉しいです」
店を出る美代子をじっと見つめる拓馬。
それは、【見つめるという目】ではなかった。
美代子と肩がすれ違い、入ってきた客が、拓馬の目線に気付いた。
(え?睨んでる?)
その客に気付いて、咄嗟に拓馬は笑顔に戻った。
「いらっしゃいませ」
「おぉ!女の子ばっかりだな!こりゃいい!」
「先輩、その言い方やめてください、オヤジみたいですから」
入ってきた客は、桜子と大田原だった。
「神山、俺が買ってやるから、好きなの選べよ」
「あら!珍しい、じゃ、遠慮なく選ばせてもらいますね」
「こちら5点で、5470円になります」
大田原は絶句した。
「先輩、ありがとうございます」
「お前、買いすぎだろ?」
拓馬が軽く会釈してきた。
「沢山ありがとうございます、男性の来店は中々ないので、とても嬉しいです」
「あ、そうですかぁ、いやいや、コイツがどうしてもここに来たいと言うもので」
「先輩、コイツって言わないでください、ムカつきます」
桜子も軽く会釈した。
「初めまして、わたくし、ハッピー旅行会社の神山と申します、この度は、明和銀行様のツアー申し込みありがとうございます、私共が添乗させていただきます」
「そうですか!恋人同士かと思いました」
「やめてください、蕁麻疹出ますから」
「明和銀行さんには、本当にお世話になってまして、今回のツアーは初めて参加させてもらうんです、恋人と一緒に」
爽やかに微笑んでいた。
(さっきの憎悪を帯びたような顔とは全然違う)
桜子は拓馬の事が気になり始めていた。
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