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浜辺には、沢山の警官、救急隊。
リゾート地とは思えない景色になっていた。
「桜子さん、終わりましたね、色々とありがとうございました」
畑山が、ニンマリとし軽く会釈した。
「私はなんにもしてませんよ、ただ首を突っ込んだだけですから」
桜子は、ペロッと舌を出し、柄にもなく可愛い素振りをしていた。
「さっ、我々も行きますか」
畑山は、署員達に何かを告げて、桜子と一緒に歩きだした。
その時だった。
畑山のスマホが鳴った。
「なんだ?え!なんだと!被害者は?中村は確保したのか?」
桜子は、目を丸くした。
「畑山さん?今、中村って、言いました?よね?」
「走りますよ!桜子さん!」
「は、はい!え?何があったんですか?」
走りながら畑山が言った。
「中村が、中村朔太郎が、美代子の復讐でしょうね、新堂真理子を刺したらしいです、ロビーで担架で運ばれてくるのを見て、逆上したようです」
桜子は足を止めた。
「どうしたんですか?」
畑山は振り向いた。
「私..何も役に..たてて..ない..うぅっ」
桜子は悔し涙を流していた。
朔太郎をロビーに置き去りにしたこと、彼の心境を察していなかったこと、事件の事しか考えていなく、関わった人達の心中なんてそっちのけだった自分に対しての悔し涙だった。
「桜子さん、泣くのはまだ早いです、さあっ!行きますよ!」
畑山は桜子の肩をポンッと叩き、また走り出した。
涙を拭いながら桜子は走った。
ロビーに着くと、そこには警官に羽交締めにされた朔太郎がいた。
その傍らには、朔太郎を悲しそうに見つめ棒立ちする涼平がいた。
「朔太郎さん!なぜ!」
桜子は駆け寄った。
朔太郎の手には、レストランの厨房から持ってきたと思われる包丁が握られていた。
その包丁に微かに血が着いていた。
未遂に終わったのだった。
「よかった...」
桜子は、ほっとしていた。
「俺は、美代子の復讐をしようと思って、でも出来なかった、そんなことをしても美代子は戻ってこない、から..」
そう言って朔太郎は嗚咽した。
「朔太郎、俺のせいだ、俺にも責任がある、みよちゃんと不倫していたせいで、こんなことになってしまって、お前にどう償えばいいのか...」
涼平が、朔太郎の肩をさすり言った。
「涼平、薄々は感づいていた、でもな仕事ばかりの俺のせいで美代子は寂しかったのかもしれない、だからお前を責めるつもりはないから」
二人は顔を見合って、号泣した。
「復讐は復讐を招きます、愛する人を奪われた人の気持ちは私には想像もつきませんが、朔太郎さんの言う通り、復讐してもその人は戻ってきません、広小路さんも拓馬さんもそれに気付かなかった、そして逆恨みだったことにも気付かなかった、朔太郎さんと涼平さんはもしかしたら1番の被害者だったのかもしれませんね」
桜子は目に涙を浮かべながら、二人に言った。
「中村朔太郎、殺人未遂容疑で署まで連行する!」
畑山はそう言って、朔太郎を抱えていった。
桜子と涼平は、朔太郎の後ろ姿が見えなくなるまで無言で見送っていた。
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