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「父は広小路の会社で働いていました、僕が15才の時の事です、その頃全国に支社を作り始めた広小路は、各都市の有力者に勢力拡大のため金を渡し、思いのままに展開していきました、しかし1社つぶれてしまったんです」
涼平は小さな冷蔵庫からコーヒー缶を出し、一口飲んでからまた話し始めた。
「結局多額な負債を抱えてしまった広小路は、ランダムに社員を解雇することにしたんです、わずかな退職金と共に」
「涼平さんのお父さんもそのうちの一人だったんですね?」
涼平はコクンと頷いた。
「父は根っからの仕事人間でした、まだ小さな会社だった広小路の会社を彼と共に大きくしていった初期からの社員の一人でした」
「もしかして、お父さんは..」
「えぇ、そうです、父は海に身を投げて自殺しました」
「えっ!でも何故?解雇された事だけでですか?」
涼平は缶コーヒーをテーブルに叩きつけた。
「それからの父は別人のようでした、仕事に就くこともなく毎日酒に明け暮れ、しまいには母と僕に暴力を振るうようになり、精神的に追いやられ自ら死を選んだんです」
「そうですか、お父さんは仕事一筋だったからそうなってしまったのですね」
「えぇ、そうです、広小路は父を殺した、僕はそう思っていました、それから母は女で一つで僕を大学にまで行かせてくれて」
「お母さんは?」
「生きてますよ、元気です、これからは僕が母を養って親孝行していかなきゃと思っています」
「あの、お母さんの旧姓を伺ってもいいですか?」
桜子は、思いきって聞いてみた。
「林です、父の死後は母の旧姓になりました」
「お父さんの姓は?」
「三国です、僕は三国涼平でした」
桜子は、伏せ目がちに口を一文字にした。
「そうです、桜子さんの推理通り、僕がMです」
「やはりそうでしたか、でも何故そこまでして..」
「そこまで?!そこまでする必要があったからです!するに値する奴らだったからです!広小路も朔太郎も!西山さんや真理子、美代子ちゃんは可哀想な事なことになってしまいましたが」
(!!!)
いつも穏やかな表情とは全く違う涼平に、桜子は驚きを隠せなかった。
「すみません、涼平さんの気持ちもしらずに軽率なことを言ってしまって、あの、私にはわからないことがいくつかあるのですが伺ってもいいですか?」
「それは、全ての繋がりですよね?まだ桜子さんの中では繋がってないわけですよね?」
「えぇ、はい」
「いいですよ、では場所を変えてお話しします」
(まずい!場所を変えられたら..)
涼平はカバンから小さなナイフを取り出した。
桜子は恐怖のあまり、ギュッと目をつぶった。
(うそ!やられる?!)
「殺しませんよ、僕は手を汚しませんので」
そう言って、桜子の手足に食い込んだ縄を切った。
「さあ、行きましょう」
「え?どこへ?」
(どうにかスマホを手に取れないかしら)
桜子のバッグはベッドサイドに置かれたままになっていた。
涼平は、桜子を立たせ、ぴったりと後ろにつき、歩き始めた。
桜子の背中には、小さなナイフがあてられていた。
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