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畑山はLINEを見て目を丸くしていた。
(おいっ!)
すぐにパトカーに乗り、サイレンを鳴らし走った。
【畑山さんが調べてくれた涼平さんの過去と先輩が調べてくれた広小路さんの会社の内部事情を照らし合わせると、やはりMは涼平さんに間違いないです。涼平さんに食事に誘われたので行ってきます。Mかどうか確かめるために。もしも私から連絡が途絶えたら、すぐにホテルまで来てください】
(桜子さん!すぐ行く!)
サイレンの音が、暗い海沿いの道路に鳴り響いていた。
「涼平さん、そんなに強く腕を掴まないでください、痛いです」
桜子と涼平は、波打ち際まで来ていた。
涼平は、桜子の言ったことを無視して話し始めた。
「サーフィンなんか好きじゃなかったし、あんな大学だって行きたくなかった、銀行員になんかなりたくなかった、それもこれも全部復讐のためだ、わかるか?人生をメチャメチャにされた気持ちが、わかるか?」
「わかりません」
桜子ははっきり言った。
「だろうな、わからないよな」
「全て涼平さん1人でしたことなんですよね?」
涼平は掴んでいた手を離した。
「そうです、【した】のではなく、導いたんです、そしてみんなはそれを実行した、それだけです」
「その事は罪には問われないと思いますが、でも歴とした犯罪だと思います」
「でも立証されない、同じ復讐心を持った者同士が偶然にも繋がって、俺が操り、それぞれが実行に移した、それが事実です」
「そうですね、でもあなたは一生その事を忘れられず、ずっと背負ったまま生きていくんです、ずっと」
涼平は下を向き目を閉じ、微かな声で言った。
「そうですね、生きていられれば」
波の音にかき消され、その言葉は桜子には聞こえなかった。
「桜子さん、俺がMだったこと、みんなに伝えてください、広小路さんには僕が伝えます」
(え?!なに?どういうこと?)
その瞬間だった、涼平は桜子の足を思いっきり蹴った。
「痛っ!」
桜子は足を押さえ、その場に崩れ落ちた。
「すみません、痛かったですか?これで暴力行為で罪が増えちゃいましたね」
「涼平さん!何をするつもりですか?」
「あなたを殺すつもりでしたが、やめました、最後まで手を汚さないことにしました、桜子さん、ありがとう」
そう言って海の中へ入っていった。
「だめです!涼平さん!」
桜子は立つことが出来ず、座ったまま叫んだ。
涼平の体は半分海に浸かっていた。
そして、頭も浸かり、見えなくなった。
「そんな...」
桜子は項垂れていた。
「桜子さーん!」
後ろから声がする。
桜子が振り向くと、遠くに畑山らしき人物がこちらに向かって走ってきていた。
「畑山..さ..ん」
大粒の波が桜子の頬を伝っていく。
波の音がいつもより大きく聞こえていた。
海が泣いているようだった。
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