想い

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その土地へ移り一ヶ月が経った頃、輝血は赤城の隣に立ち、キョウが仕事をする様子を見ていた。 初めて来たと言う客は女性で、キョウを前にして緊張しているようだった。 そんな女性客にキョウは優しく微笑み話し掛ける。 緊張しながらも自分の頼みたい事を話す女性。 ニコニコとしながら黙って聞くキョウ。 「あァ、そういう内容なら西側へ行ってくれるかい?」 女性の話を聞き終わったキョウは変わらず優しい声で話す。 どうやら女性は金銭苦で生活が出来ない為、生活費の足しを借りたかったらしい。 「に、西側…ですか?」 「そう。おい赤城ィ。」 「はい。」 名を呼ばれた赤城が返事をしキョウの隣へ立つ。 「レイの所に案内してやりなァ。」 「承知しました。」 赤城は扉を開き女性が来るのを待つ。 「アイツと一緒に行けば大丈夫、ついて行きなァ。」 女性はキョウに頭を下げると、赤城と共に部屋を出る。 扉が閉まるとキョウはソファに寝転ぶ。 「輝血ィ」 「はい。」 「ウチはなんでも屋だが、金銭の貸しはしねェ。覚えたかい?」 「はい。でもレイさんはするんですね?」 「そう。だからレイの所の仲間の数が多い。」 「…どうしてですか?」 「そりゃァお前、取り立てに行かせる為だよ。」 「返しに来るんじゃないんですか?」 「……はっはは。まだまだ純粋だねェ。そりゃァ借りる時は返すって言うだろうよ。でも返済期日を守るやつなんてのは2割にも満たない。そういう人間だからウチみたいな所でしか借りる事が出来ない。」 「なるほど…でも返しに来ないって分かっていて貸すのはリスクが高いんじゃ?」 「普通の闇金ならそうだねェ。警察や弁護士に逃げられりゃ困るからねェ。でもウチで借りたヤツは警察や弁護士に守られねェ。」 「接近禁止令がある分厳しいのかと思っていたけど…」 「接近禁止令があるのはウチだけじゃない、向こう側もだ。それに向こう側はなるべくこっちと関わりを持ちたがらない。…一人の人間を守る為に警察が保護をしたとしよう。取り立てが出来なくなった俺達は何処で何をする?」 「え?えーと…ソイツの家に行って金目の物を手当り次第持ち帰る…とか?」 「うーん。それじゃァ全然元が取れない可能性が高いねェ。」 「えっと、じゃあ保護期間が終わるのを大人しく待つ…?」 「はっはは、そんなに気が長い奴らの集まりに見えるかい?」 「うーーん?」 「ソイツにも家族がいる。家族がいなけりゃァ恋人や友人。それに職場ってのもあるだろうなァ。そこから回収するんだよ。」 「え、でもそれって向こう側に行った時点で目をつけられるんじゃ?」 「さっきも言ったが、警察達も俺達とはなるべく関わり合いたくないんだよ。そりゃァ通報されれば渋々来なけりゃならなくなるけど、大体俺達に手を出さずに厳重注意程度で帰って行く。」 「警察なのに?」 「そう。それが何故だか分かるかい?」 「関わりたくないから…?」 「そう。それと、奴らの中にもウチの客がいる。はっはは、俺らが捕まって困るのも警察。終わってんだろォ?この国。」 「え!警察の客がいるんですか?」 「ん?そうだよ。だから俺らは比較的向こう側でも自由にやってきた。そりゃァ客じゃない警察の方が多いけど、警察も上からの命令には逆らえないからねェ。厳重注意だけって言われりゃァそれ以上の事はよっぽどの事が無い限り出来ない。」 「よっぽどの事って?」 「そうだなァ。例えば警察相手に俺らが暴れたり、警察が来たのにも関わらずソイツの周りの人間を脅し続けたり。引き際が肝心。そもそも通報される事の方が特殊だけどねェ。」 「そうなんですか?」 「そうだよ。自分の家族が金を借りてトラブルをおこしている、しかもその相手は向こう側の人間。だなんて周りにバレたくない人が殆どだ。恋人や友人はソイツとの関係を経つ奴も多い。」 「なるほど…」 輝血は真剣にキョウの話を聞いていた。 「まァ、これをやるのはレイの方だけどねェ。これを覚えなきゃいけねェのは輝血じゃなくて懍だなァ。」 「俺も一応覚えておきます!」 「あ?あァ、いつか自分がやる側になるかもしれねェからなァ。覚えておきなァ。」 キョウと輝血が話し終えると赤城が一人の男を連れ戻ってくる。
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