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「ねぇ、来週の土曜日、何の日か覚えてる?」
……全く覚えていない。どうしよう。
休日の昼下がり。長雨の間を縫った暑苦しい陽射しのもと。気持ちの良い散歩の帰りに、突然妻がそんな事を聞くものだから、僕は戦々恐々とした。
……たぶん怒られる。
僕は全く思い出せない。
思い出せないとなると、まず間違いなく怒られる。怒られるだけならまだしも、きっと嫌味を言われた挙げ句に必要以上に卑下される。
去年、うっかりと結婚記念日を忘れていた時なんて、愛が無いとか、人に興味が無いのだとか、そんな類の嫌味と暴言を数日に渡って浴びせられた。暴力沙汰に発展しなかったのは初犯に対する猶予が付いただけで、おそらく今回もとなると、かなりマズい。どのくらいマズいかと言えば、もうどうしようもなくマズい。マズ過ぎて何がマズいのかよくわからなくなるほどマズい。
それは避けたい。なるべく穏便に済ますよう、何とかせねばならない。
僕の発言一つ一つが重要となる。
地雷原を行く兵士のように、慎重かつ勇気を持って立ち向かわねば、僕に明日は無い。
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