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ロメオは手にした便箋を放り投げた。
それから大きくため息をつく。
まただ、また空振り。
成果なし。
情報は一向に得られやしない。
この手紙を寄こしてきた探偵事務所もいい加減見切りをつけた方が良いのかもしれない。高い金を払ってなんの手がかりも得られないのだから。
ロメオは硬い金髪をかき上げ、首元のネクタイを緩めて椅子にどさりと腰掛けた。
すると自室の扉がノックされた。
「旦那さま、ジュリア様がお見えです」
「通せ」
体勢を戻し、いま緩めたネクタイを少しだけ戻す。
瞬間、爽やかな風が吹いてジュリアが入ってきた。いつも通り透き通るような白い肌に血色の良い頬、ロメオよりも明るい金髪を今日は緩く巻いている。
「時間より少し早くてごめんなさい。お仕事中だった?」
「いや、大丈夫だ」
「また難しいことを考えていたんでしょう。しわが残ってしまうわよ」
そう言うと、ジュリアはロメオの眉間をそっと指でこすり、そのまま手を滑らせて頬に置いた。促されるようにロメオがかがむと、頬に温かい唇が落ちる。
ロメオはジュリアに見えないよう、放り投げた便箋を手探りで机の隅に寄せた。
「少し考え事をしていたんだ。君が来てくれたから力が抜けたよ」
同じようにジュリアの頬を撫でたロメオは体を離し、彼女に椅子を勧める。
「ジュリア、観劇の後は夕食を?」
「そうね、そうしたいわ」
「良かった。実はもう、ド・ロレッタでディナーの予約をしている」
「まあ! よく予約が取れたわね。嬉しい!」
ジュリアは今日の観劇に出演する俳優について話し始めた。頬がさらに上気している。
相槌を打ちながら、ロメオは机の上の書類を片付け始めた。先ほど脇へ寄せた手紙は引き出しへ滑り込ませる。
こんな人探しを続けていることを、目の前の美しい婚約者には、言えない。
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