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ジュリアを伴って劇場に入ったロメオは早速知り合いに捕まった。正確にはジュリアが、だ。
ジュリアは二年ほど前、商社を継いで四苦八苦しているときに知り合った。大手の取引先の一人娘だ。
ロメオの事情を知り、父親の協力を伴って仕事を手伝ってくれた彼女と親しくなるのに時間はかからなかった。
顔の広い彼女はどこへ行っても声をかけられる。それが次の仕事に繋がることもあり、ロメオにとっては非常にありがたいのだ。
もうじき、二人は結婚する。
「ロメオ、今夜の席はとても良い席だわ。こんなに近くて正面だなんて!」
「本当だ。ラッキーだったな」
並んで席に着くと、耳元に顔を寄せられる。
「さっき、化粧室に行った時にロレンス夫人とお会いしたのよ。宝石の件で相談したいと仰っていたわ。連絡するって」
「君と一緒だと仕事が降ってくるな」
「けなしている?」
「まさか。給与を支払うべきか考えている」
くすくすと笑うジュリアの髪を梳き、そのまま手を握った。左手の薬指にはダイヤが輝いている。
ジュリアと一緒にいる時は、三年前の惨劇を忘れられる。彼女は美しいだけでなく、知的で、朗らかだ。
彼女を娶ることが出来るのは僥倖。
本当は彼女と結婚する前に犯人を見つけ出し、悔いなく新しい生活を迎えたいと思っていた。
見つめ合っていると劇場の明かりが落ちたので、目を離して壇上に注目した。繋いだ手はそのままだ。
演目は父を殺した仇に復讐する狂気の男の話。
自分のようだ。否。自分はまだ狂気には至っていない。すがるように、触れていたジュリアの手を握りしめる。
ロメオは壇上の主人公を、哀れだなと思った。客観的に見ればそうだろう。
復讐など考えず、前を向いて生きれば良いのだ。幸せはいたるところに存在し、手を伸ばせば掴むことが出来る。
死んだ人間は生き返らないが、自分は生きていかなければならないのだから。
ふと、隣のジュリアに目をやる。
彼女は楽しそうな表情で壇上の俳優たちを見つめていた。
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