羊の顔をしたキミへ

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羊の顔をしたキミへ

ねえ、覚えてる? 私とキミとはじめて会った時のこと。 私はそのことを一生覚えておきたいのだけど、記憶というやつはどうも気まぐれだからここに書き記しておくことにするよ。 キミも読んでくれるといいのだけど。 「羊の顔をしたキミへ」 この世界には悪い人がいるよって、 だから騙されちゃダメだよって騙された。 「このペンダント持ってたら大丈夫だよ」って騙された。 でもこのペンダントを売ってくれた人は善い人だった。 ペンダントが詐欺だと教えてくれた人も善い人で…。 悪い人は誰だろう。 悪い人って何だろう。 その人はこの石を持っていればもう騙されないよと、真っ白な石を売ってくれた。 だけどそれもどうやら嘘だった。 その石はただの石ころで見る人が見ればわかるのだという。 でも、 石を売ってくれた人は善い人だった。 石ころだと教えてくれた人も善い人だった。 ある日石ころだと教えてくれた人と一緒に歩いていると石を売ってくれた人とバッタリ遭遇し、 【石ころだと言った人】が【石を売った人】を嘘つきと言い、【石を売った人】も【石ころとだと言った人】を嘘つきだと言ってケンカがはじまった。 そこへ【ペンダントを売ってくれた人】が通りがかって「ほら、ペンダントを手放したりするから悪いのよ」と言った。 はたして本当にそうなのか。 本当のところはどうなのか。 導かれるように導かれればキレイな言い訳ができていく。 私はうんざりして逃げるように空の奥へと駆け上った。 そして大きく息を吸い込んだら、なんと、羊の顔をした君がいた。 マヌケな顔でポーポー喋る君はあまりにもふざけてたけど、私はいとも簡単に君を好きになった。 圧倒的な何かが君にはあって、 たぶんそれが「愛」だったから。 私は羊の顔をしたキミに名前を尋ねた。 すると羊の顔をしたキミは「ポー」と言った。「ポーっていう名前なの?」と聞くと「ポー」と言う。だかは私は羊の顔をしたキミを「ポー」と呼ぶことにした。 ちなみに、礼節を重んじて、私は尋ねるより先に自分の名前を先に名乗った。 しかしポーは「ポー」としか言わないので、果たして理解してもらえたかは不明だった。 もしかしたら耳の構造の問題で、ポーには私の声が「ポー」としか聴こえていないのかもしれない。そしたら私の名前も「ポー」になってしまうわけだけど、まぁいいか、と思った。どうせ2人しかいないのだから、名前なんて大した問題じゃない。 それより問題なのは、今、2人でいる時間をどう過ごすかだ。 ここには何もない。 机も椅子も、道路も山も。 あるのは上と下とポーと私。 「ステキなところだね」というと、ポーは誇らしげに「ポー」と笑った。 どうしてかはわからないけど、 私はもう帰らなくちゃいけない時間だと急にそわそわしてしまって、ポーにそろそろ帰ると告げた。 だけどまた会いたいから「また来るね」と約束をした。 私の世界にも遊びに来てほしいと思ったけれど、私の世界ではきっとキミは笑われてしまうからキミのタイミングでキミがいいと思う時に私のところへ遊びにきてね、と、私は羊の顔をしたキミと別れた。 そして家に戻るとテーブルの上に渦を巻いた角があって、 私はそれをお守りにすることにした。 私を幸せに導くそれとしてではなく、 私が幸せに導くそれとして。 君を導くそれとして。
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