不要不急の時間渡航

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月が沈み、星は雲に隠れ消え、黒い闇が静かに降りる。 「新型コロナウイルス…か。」 長谷川は静かにつぶやいた。 バーは困惑と不安に満ちていた。5年後の斎藤の口から語られた2020年の惨状は到底受け入れられるものではなかった。世界的に流行した新型ウイルス、大規模な自粛、低迷した経済、中止になったオリンピック、先の見えない絶望。 5年後の未来への希望は、あっさりと砕かれた。 しかし、呆然としている重役たちの中で、長谷川だけは目を鋭く光らせ、を動かしていた。 やがて彼は、静かに宣言した。 「その惨劇、私が止めて見せよう」 その場にいた全員が顔をあげ、長谷川の方を見る。 「いやいや、そんな顔で私を見ないでくださいよ。これは決意表明みたいなものです。まだ具体的に何をどうするという策があるというわけでもありませんよ。」 長谷川は笑みをこぼすと、未来の斎藤の方に近づいていく。 「まあ、未来ではお疲れさまでした。ここでは感染を気にする必要はありませんし、存分に楽しんでください」 長谷川は未来の斎藤の肩をたたきねぎらうと、テーブルに座るように勧める。 最初は顔が暗かった未来の斎藤も徐々に明るくなっていき、その日の夜には赤ら顔で気持ちよさそうに酔っぱらっていた。 その数日後、長谷川は発熱した。
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