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「これは運命なのかなぁ。俺は女神なんて信じない質なんだけどね」
「え? なにかおっしゃいました?」
殿下はさっきからぼそぼそと独り言を話される。ユニークな方だとはお聞きしていたけど、これじゃ本当に変わり者だわ。
「君はここのお掃除を一人でやってのける自信はあるの?」
「自信も何も任されたお仕事ですので、もちろん成し遂げてみせます!」
ここで雇い主の機嫌を損ねてしまったら、せっかくのメイドとして積み上げた地位が揺らいでしまうかもしれない。
「もっと君を知りたくて堪らないんだよね」
「はい?」
「俺の今の気分の話」
王太子の公務って無いのかしら? この人は暇なの?
「話しかけられてちゃ、事が進まないって顔してるね」
覗き込むように距離を詰められ、思わず後退ってしまう。
「この俺から逃げられるとでも?」
口元は笑っているのに、瞳は妖しく揺らめいたのを見てしまった。
「メイドであっても、何もかも給仕するわけではありません! 仕事を選ぶ権利だって持ち合わせています!」
「へぇ、強気だね」
目の前の彼は、顔を背けるようにしながら、天井近くの書物のタイトルを読んでいるような素振りをした。
この人、嘘を吐くつもりだわ。
「一応、弁明するけれど。手慰みにしようなんて思っちゃいない」
恐ろしい言葉を聞いたような気がして、思わず肩が上がってしまった。
「俺はいつだって、本気。……なんだよ?」
不気味なほど整った笑顔で言い放たれた。
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