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序 ~呪島より
呪島の──占い婆が死んだ。
何とも恐ろしげな響きだが、建国一五〇〇年になる『シマ国』の帝が抱える、れっきとした巫女が住む神聖な島だ。
だが、帝の為の占いしかしないので──自分達には縁も何もないと、シマ国の民は認識している。
ただ、現在、呪島にいる占い婆が最後の巫女らしい……という噂は、近辺の島々で囁かれていた。
その占い婆が、十数年前に、呪島の浜で、白い肌にくすんだ金色の髪を持つ少年を拾い、育て、──遺したことを、知る者は殆どいなかった。
少年の名は、マナオ。……推定、十五歳。
拾われた時、三歳くらいと見られ、十二年が経つのだから、そういう計算になる。
カタコトの幼稚語だったが、シマ言葉を喋り、この国の食べ物をすんなり食べたから、少なくとも育ちは、この国の何処かと思われた。
しかし、その容姿は、殆どが黒髪黒目に小麦色の肌である、シマ国の民だとは、誰が見ても、とても思えなかった。
とは言え、外海から漂着した異国の子……とは、考えにくい。
──時折、旧世界の機械文明を持つ外国から、『船』が来ることはある。
逆に言えば、動力がある『船』でなければ、シマ国に近寄ることは出来ない。
シマ国は、東の果ては凍土、西は亜熱帯地域と、長く延びた地形で、海に囲まれている。
国自体がひとつの大きな『島』みたいなものだ。
都がある本土に加え、南西部に無数の島が浮かぶ海域もある。
それらの海には、特殊な潮流があり、様々な条件が重なった時しか渡れなかったりする。
太古の昔から、潮を操り、生きてきた島民ですら、外海まで出ることは殆ど無い。
もし、外洋へ出てしまうと、動力のないシマ国の『舟』で戻って来るのは、極めて困難だからだ。
だが、マナオが漂着した当時、外国の船が往来したり、難破船が出たという話は欠片もなかった。
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