選択は苦手

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選択は苦手

私は選択が苦手だ。 特に、それを痛感するのは、あるサンドウィッチ店で商品を注文するときだ。そこではパンの種類や盛り込む野菜を自由に決められる。この自由にというのが実に曲者で、いざ店員にいかがいたしましょうかと問われると、非常に困ってしまう。 しかし今日は、どうしてもこのサンドウィッチ店で昼食を取らなくてはならなかった。会社の昼休みによく利用している食堂が、休業しているからだ。 思えばあまり選択というものをしてこなかった。私に限らず、日本人は自分の意志による選択が得意ではない気もする。右に倣えの精神。皆と同じ事による安心感。私はこれが好き! 私はあれが好き! という自己主張。これらの難しさは幼い頃からあった。出る杭は叩かれるなんてことわざがあるくらいなのだから、当然なのかもしれない。 あれこれ悩んでも腹は減るので、私は腹をくくってサンドウィッチ店に入った。商品が沢山書かれたメニュー表を見てやはり迷ってしまう。すると、店員が、私に対して業務的な商品アピールを投げかけた。 ――ただいま『実りの秋フェア』開催中です! 対象の商品がお買い得となっております! メニュー表にはフェア開催中の文字が踊っている。スモークサーモンのサンドウィッチが安かったので、私はこれを注文することにした。 「お野菜の量はいかがなさいますか?」 「えっと、増やすと料金がかかりますか?」 「無料でございます」 ショーケースに並べられた野菜たちはどれも新鮮でみずみずしい。せっかくの実りの秋だ。ここは限界まで増量しよう。 「全部の野菜を一番多く入れてください」 「かしこまりました」 その後もさまざまなことを尋ねられたが私は臆することなく答えた。好きなものを選んで食べていいのだ。なぜなら私が食べるものなのだから。 そうして出来上がったサンドウィッチを持って近くの公園へと向かう。市民の憩いの場であるそこは私と同じような人々が、皆思い思いに時間を過ごしている。 ベンチに座って出来立てのサンドウィッチをほおばる。 シャキ。 歯に伝わる野菜の触感が、選択するという勇気を、私にもたらしてくれた気がした。
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