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「さぁ、そろそろ夕立が止む頃だよ。赤い鳥居を抜ければ、元の世界に戻れる」
「うん。…ありがとう」
狛犬は沫里を赤い鳥居の前へと促した。沫里が狛犬を見ると、シアンも沫里を見送るためにそばに来ていた。シアンは口になにかをくわえていて、それを渡すかのように沫里の手へ触れた。シアンが口にくわえていたのは一枚の紙切れだった。
「なぁに、シアン」
不思議に感じながらも沫里はシアンからその紙切れを受け取って見てみると、そこには文字が一言書いてあった。
『逢魔時にまたおいで』
その一言を見た途端、沫里は嬉しくて微笑んでいた。
「シアン、ありがとう!」
沫里が微笑んだままシアンを撫でて言うと、シアンは「ニャーン」と嬉しそうに鳴いた。
しばらくすると、狛犬は普通の石像に戻っていてシアンの姿は消えていた。かわりに、真っ暗だった鳥居の先には優しい光が差し込んでいた。
「……じゃあ、また来るね」
沫里は一言そう呟いて、赤い鳥居をくぐった。
気がつくと、沫里は畦道の真ん中に立っていた。
「……夢、だったのかなぁ」
沫里が呆然と呟くと、ポケットから紙切れが一枚ひらひらと舞い落ちた。地面に落ちる前に手のひらで受け止めてみると、そこには『逢魔時にまたおいで』と書かれていた。
「夢じゃなかったんだ…。じゃあ、いつかまたあそこに行けるってことだ!」
沫里は嬉しくて笑顔になっていた。
「よしっ、帰ろう!次の夕立が楽しみだな」
しばらく紙切れを見つめていた沫里は、そっとポケットに紙切れを戻した。
歩き出した沫里の気持ちは夕立上がりの涼しさのように清々しい気持ちに変わっていて、膝のケガの痛みも消えていた。
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