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ある時間が夕立と重なったとき、不思議な場所への扉が開く。
沫里は帰路を急いでいた。
急な夕立がやってきたのだ。
「なんで傘を持ってきてないときに振ってくるの!」
走りながら沫里は一人、空に向かって文句を叫ぶ。そして、近道の畦道に入ってすぐ転んだ。
「わっ!」
畦道に思い切り膝をついて倒れた沫里は痛みよりも驚きのほうが大きく少しの間、呆然として動けずにいた。それからゆっくりと体を起こして立ち上がると膝からは血がにじみ出ていた。
「……い、たい。すりむいちゃった」
そう呟きながら沫里はため息をついた。沫里はいつも油断すると転んだりケガをしたりしやすくなるのだ。沫里は毎回、そんな自分に嫌気がさしてくる。
涙をこらえるように両目を手で何度もこすっていると、ふと目の前に白い猫が一匹佇んでいる姿が見えた。沫里には見覚えがあった。
その猫は少し前まである神社の境内に住み着いていた野良猫だった。沫里はその猫の元へと通うことが日課になっていた。しかし、いつからか猫は忽然と姿を消した。
そんな猫が目の前にいることに驚いた沫里は嬉しくて笑顔になっていた。
「シアン!どこに行ってたの?心配してたんだよ」
「ニャーン」
シアンというのは、沫里がつけた猫の名前だった。緑の田んぼと青い空の間に佇むシアンは、きれいなシアン色に包まれているように見えたのだ。
笑顔で近付こうとする沫里に猫は、沫里を安心させるかよのうに元気よく鳴いて立ち上がった。どこかへ行こうとしているようだ。
「どこに行くの?……もしかして、雨宿りができるところ?」
沫里の質問に猫は振り返り肯定するかのように鳴いて、また歩き出した。しかたなく沫里はシアンのあとを追うように歩き出した。
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