渚の街のモノクローム(1) ~邂逅編~

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 本田さんは足元も怪しくフラフラだった。「オレが悪者でなくて良かったな」 彼女には聞こえていないんだろう。  オレは倒れないようにと肩を抱き。歩いて行こうとしたが、本田さんの足取りがおぼつかないので、道を右へ左へふらつきながら歩く形になった。誰かが見ていたら、きっと肩を組んだ二人組の酔っぱらいが千鳥足で歩いているように見えたろう。確かに一人は酔っぱらいなのだが……。  あまりにふらつくので、オレは右手を後ろから反対側の脇に手を入れ「ギュッ」っと引き寄せた。本田さんの甘い香りが広がった。あと…… オレの脇腹にぷにゅっとした感触が伝わってきた。ヤバい、この小娘以外に大きいぞ……うちの優菜とは大違いだな、などと考えていると、「あ~ら♡」 クロには筒抜けになっていたようだ。「やっぱそういうことしちゃうんだ」 このクロ猫め、オレの苦労も知らないで……「重いんだぜ?」 考えただけのつもりだったが声に出ていた。「だぁれが重いってぇの?」 小娘が覚醒したらしい。しかし口調は酔っぱらいのそれだった。「あ、起きてたんか。悪い悪い。だからちゃんと歩いてくれよ」 「なぁ~によぉ、失礼ね」 と言いながら、オレの首に両手を回して抱き着いてきやがった。脇腹にあったぷにゅは、オレのほぼ正面に移動して、二つに分離していた……人が見たら、完全に抱き合ってるアベックに見えるだろう。アパートまでもう少しだ!これ以上くっつくなよな。  とか思っていたらクロが、「この娘、あなたのことが好きみたいよ?」と伝えてきた。「何で喋ってないのにわかるんだ?」 とオレ。「シロが能力を使えばこんなものよ」なるほど、この二人がいれば、最強タッグだな。さっきのクロの発言は、敢えて黙殺しておいた。  とか言ってるうちにアパートに着いた。最後の方は抱き合ったまま引きずってきた形だ。オレの胸にたくさんのぷにゅ感が残ってしまった。       オレは「本田さん、着いたぞ、部屋はどこだ?」 と話かけた。「うぅ~ん……むにゃむにゃ……」 「なんだって?もう一度頼む」 「むにゃむにゃ……」 何かを言ってるが言葉になってない。オレは、「オイ、シロ、この娘の部屋を調べてくれ」 と頼んだら、クロがすぐに「2階の右奥の部屋らしいわよ」 あっさり答えた。 ……と、わかったまでは良かったが、さて、この娘をどうやって上げよう?小娘は相変わらず正面からオレと抱き合った形のままだ。  このまま強引に引き上げてもできるんだが、このサビだらけの階段を引きずり上げたら、どれだけ脚に傷を付けてしまうんだろ。  オレは「しゃあないな」 と一人で納得した。お互い前向きのまま抱え上げた。両足を右脇に固定し、左腕で下から上半身を抱え上げる。やや不細工な「お姫様だっこ」となった。意外に重いなと階段を2~3段進んだところで、小娘が両腕で強く抱きついてきやがった!
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