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4 佐藤先輩
昼ごはんから社に戻り、途中コーヒー休憩を挟みながらその日の仕事は時間通り18時に終わった。佐藤先輩もきっちり書類を作り終えたようで、その他の仕事もこなしていた。流石エースなだけあって、サクサクと事を進めている。
18時を少し過ぎた頃、田村が顔を出した。
どうやら外回りを終え、報告書も提出したようで、もう帰れるように荷物をまとめて来ている。
「お待たせしました!!田村!もう帰れます!!!」
中学生かというテンションでそう高らかに宣言して部署のドアの所に立っている。
「ああ、ちょっとだけ待ってくれるか?今片付けるから。中野さんも準備できてる?」
佐藤先輩がPCの電源を切りながらデスクを綺麗にまとめている。
「はい。私も大丈夫です。あ、ゴミ集めしてないや」
私は部署のゴミを一つに纏めて部署のドアの前に出した。
(土曜日はこうする事になっているのだ。平日より人が少ないから)
「お前、今日二日酔いだったの?」
私が手にしているゴミ袋を眺めながら田村が私に聞いてきた。
「え?なんで??」
「だって、カフェイン飲料とビタミンドリンクって、深酒した時のセットみたいだからさー」
「あ・・・バレた?二日酔いってわけではないけど、昨日ちょっと飲んだからさー」
「ふーん。まあ、酒はほどほどにしとけよ。って、今から飲むんだけどな!ハハハ」
豪快に笑って田村は私の背中を叩いた。
「さ!行こうか!お待たせお待たせ。先に軽く飯でも行くか?」
佐藤先輩がジャケットを片手にオフィスを見回す。
「よし。大丈夫だな。行こうか」
室内の電気を消して、三人で連れ立って社を後にした。
ひとまず会社からそう遠くない炉端焼き居酒屋に行く事になった。
前々から田村と佐藤先輩が行こうと言っていたお店らしい。
どうも人気店らしく、ここもまあまあ人が入っていた。
店内は大きな囲炉裏を中心に椅子が並ぶ。囲炉裏の周りだけでも十人は余裕で座れそうだ。その後ろには小さな半個室の部屋もあって、若い学生のカップルがデートで来ている様だった。
既に囲炉裏周りの席は埋まっていて、三人は座れなかった。だから半個室の部屋に通される。
私は田村の隣に座った。
とりあえず飲み物を頼んで、名物の品を注文した。
新鮮な魚介類が売りの様で、それらが一通り盛り合わせになっている”海鮮炉端焼き盛り”というのを頼んだ。他にも”だし巻き卵”や、”ホッケの一夜干し”、”焼きおにぎり”なんかも頼んであっという間にテーブルの上は一杯になった。
「二人は一人暮らしだっけ?こういう食事でよかった?」
佐藤先輩が”だし巻き卵”を皿に取りながら私たちに聞いてくる。
「俺は今、兄貴と暮らしていて、コンビニ飯が多いんで、こういう料理は久しぶりですよ。取引先との食事は大抵洋食が多いんですよ。取引先の部長が肉好きで・・・。だから魚とか久しぶりに食べてます」
同期の田村が屈託のない笑顔でホッケをつまんでいる。
「中野さんは?それこそ、イタリアンとか行ったりするの?」
「え?私ですか?ん〜まあ、女友達と行く時はイタリアンとか多いですね〜。でも結構最近は鍋にハマってて、女同士でもしゃぶしゃぶとかの食べ放題とか行きますよ」
「あ〜!しゃぶしゃぶの食べ放題の店いいよね!俺も息子とよく行くよ」
先輩がテンション高く相槌を打ってくれた。
「そっか。佐藤先輩、お子さんいらっしゃるんでしたね」
田村が”盛り合わせ”のど真ん中に鎮座しているイカに手を伸ばす。
「そうそう。俺、所謂シングルファーザーだから。もう息子も大きくなって12歳になるよ。今日はうちの両親の家に遊びに行ってるから、こうやって俺も飲みに出れるわけ。普段はなるだけ早く帰ってやらないとまだ寂しいだろ?まあもう二、三年したら、反抗期で相手してくれないかもしれないけどな・・・ハハハ」
そう笑って、お酒を一口飲んだ。
「お子さん、そんなに大きいんですね。まあ、確かに中学生になったら反抗期ですもんね。俺もまあまあ反抗期あったしなー」
田村が自分の反抗期を思い出しながらお酒を飲む。
「そうなんだよねー。俺、こう見えて若い時ちょっとやんちゃだったから、息子もきっと高校生になったらやんちゃだろうな・・・って今から怯えてる。俺、19歳の時に息子できたから・・」
「あ!そっか!先輩31歳ですもんね?俺らの5歳上だから・・。なかなかですね」
田村はお酒が入って色々饒舌に聞いている。
内心、私も聞きたい話だったから、心の中では『田村!もっと聞いて!』と思いながら食べていた。
「俺、高校卒業してすぐに彼女に子供ができちゃって。それで大学生だったけど、彼女と結婚して、アルバイトしてってやってたんだよね。でも子供が5歳の時、彼女が交通事故で亡くなって・・・。
それからは息子と二人。
まあ、俺の親が助けてくれてるからなんとかやって来れたって感じかな。
でさ!最近急に息子の食欲がすごくて、土日のどちらかは食べ放題に連れて行ってるってわけ。
なあ、どこかコスパが良くて肉食べれる店とか知らない?最近しゃぶしゃぶも飽きて来たみたいで、どっか違うとこ行きたいって言っててさー。田村は食べ放題とか行かないの?」
「え?俺っすか?んー。昔は焼肉食べ放題とか行きましたけど、最近は・・・。
あ!でも、韓国料理屋さんで食べ放題あるとこ知ってますよ。そこの情報先輩に送っときますよ」
「お!それマジで頼むわ。中野さんも何処かいい食べ放題あったら教えて。何の食べ放題でもいいから。息子は取り敢えず食い物あれば満足するみたいだからさ」
そんなことを言いながら携帯を取り出し、息子の写真を見せてくれた。
ちょっとクールな顔立ちが佐藤先輩にそっくりだった。
なるほど・・・。
お子さんいるとは聞いていたが、そういう事情だったのか・・・。
奥様を交通事故でなくされて、一人で息子さんを育てて・・・。
仕事もバリバリこなして、カッコイイのに浮いた話がないのはそういうことだったんだ。
今日の出勤は思いの外、いろんな話が聞けてよかったと思えた。
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