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「水瀬…俺、やっと気が付いたんだ。俺が本当に好きなのは水瀬だったんだって…」
雪が降る季節の中、いよいよ撮影は最終日を迎えていた。
撮影は通常、物語通りには進まずにバラバラに撮ることが常だが、今日は映画のラストシーンを撮影してクランクアップという段取りになっている。
七緒は昨日一足早く撮影を終えたが、今日も現場を見に来てくれていた。
監督や田尾、マネージャー達が見守る中で悠理と茉央は互いの役を演じる。
もう、これで終わってしまうのかと思うと寂しくもある。けれど、嬉しくもあった。
この作品に携わる事ができて本当に幸せだと茉央は思う。
「虫のいい話だとは思う…でも本気なんだ」
加賀の台詞に茉央が演じる水瀬は目を瞠る。
そして行間の後、色々な想いを抱えながら静かに涙を流す。
「……俺はずっと加賀の事が好きで堪らなかった」
「水瀬……」
「…ねえ、加賀。お願いがあるんだ」
涙を浮かべながら困ったような表情で小さく笑みを浮かべる水瀬。
「――キスして」
水瀬の台詞の後、加賀は水瀬をそっと抱き寄せキスをする。最初は触れるだけのキスを。そして見つめ合い、2人は涙を流しながら何度も口づけを交した。
遠回りした恋は、巡り巡って本当の愛を知る。始まったばかりの2人の恋は、これから先、きっと穏やかに続いていく――。
「――――はい!カット!!これにてクランクアップです!皆さん長い間お疲れ様でしたー!!」
監督の掛け声と共に、スタジオ内に割れんばかりの拍手がわき起こる。
茉央と悠理は笑いながら抱き合い、そこへ七緒も混ざる。
約4ヶ月間。最初は長いと思っていたのに、いざ始まってみたらあっという間で。
この撮影期間中は、本当に色々な事があった。
良い事も悪い事も沢山あったなと茉央は思う。
この数カ月が、茉央を飛躍的に成長させてくれた。かけがえのない日々。
「茉央、愛してる」
抱き合いながら茉央の耳元で悠理が甘い言葉を囁く。
茉央は吃驚して目を瞠ったが、自分も彼と同じ気持ちを抱いていた。
尊敬から恋へ、恋から愛へ。
気持ちは移ろい、心が幸せで満ちていく。
「……俺も、愛してる」
その日の夜、二人きりになった空間で茉央は悠理の耳元でぼそりと呟いた。
甘く優しい時間。彼に、心も身体も全てを委ねる。そう誓った夜。
硬く閉じた蕾はゆっくりと大輪の花を咲かせ、この先も"この恋の続きを"2人で共に歩んでいく。
END
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